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【ミステリーレビュー】探偵映画/我孫子武丸(1990)

探偵映画/我孫子武丸

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「かまいたちの夜」のシナリオライターとしても知られる我孫子武丸によるメタ要素の強いミステリー小説。

新作の撮影中に鬼才の映画監督・大柳登志蔵が失踪した。
監督の実績のみで首の皮一枚繋がっている倒産ギリギリの制作会社や、ラストチャンスと映画製作に投資をした出演者たちは、これをお蔵入りにするわけにはいかないと、監督不在の事実を隠しながら、問題編のみ完成している探偵映画の解決編の制作にとりかかる。
消えた監督の真意と、劇中劇である探偵映画の犯人は誰か、という二重の謎が仕掛けられた構成になっているが、とりまく雰囲気はコメディタッチ。
サードの立原を視点人物とした青春ミステリー的な要素も持ち合わせていて、代表作である「殺戮にいたる病」などと同じ著者とは思えないほどのライトな作風と言えるだろう。

問題編のみ提示された探偵映画を、どうやったら整合性のある解決編を示すことができるか。
どういう結末になったら、ヒット映画になるような驚きをもたらせるか。
面白さありきでミステリーの結末を考えていくスタイルは、正統派の(という表現もおかしいが)メタミステリーである。
キャストはキャストで、自分が犯人であれば実質的な主役になれる、と自分が犯人になるシナリオを提案しだして、多重解決モノとしての要素もあるのが面白い。

序盤は、映画の蘊蓄が溢れかえり、やや衒学主義的な読みにくさを感じたものの、一度物語が動き出してしまえばテンポ良く進んでいくので、あっという間に読み切ってしまえる。
結末でのどんでん返しは、もう少しインパクトが欲しいと思ってしまうが、30年以上前の作品であることも踏まえれば、洗練されていない部分があるのも致し方なしか。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


監督の真意については、比較的わかりやすい。
特に、美奈子の行動や態度があからさまなので、メイキングが作られていることに気付かなかった読者は、ほとんどいないのではなかろうか。
もう少し、監督の失踪に事件性を残したまま展開できていれば、ラストの"やっぱりね"な感じは薄まっていたかもしれない。
もっとも、事件性がなさそうだとわかっている空気感が、本作のコミカルさを生み出している部分はあるので、それも味と捉えておくべきなのだが。

劇中劇については、読み飛ばしたくなる映画談義が、伏線として効いていて、これについては唸らされた。
"死体が犯人"説については、キャストが助監督のお母さんで、"死体として寝ているだけ"という条件で出演している、という裏側の事情ではじめに否定されるだけに、完全に視界の外へ。
通常のミステリーだったら残されるべき選択肢が、劇中劇にしたからこそ読者を欺ける、なかなか巧妙な仕掛けである。

エピローグについては、都合が良すぎるとは思うもののハッピーエンド。
青春小説としては、ゴールには至らないも一歩前進、といった爽やかな余韻を残していて、読後感は悪くない。
意識的に、映画になっても映えるような構成になっていると思うので、映像化したものを見てみたいな。
映画の舞台裏という設定から「カメラを止めるな」を連想している読者の感想も多いようだが、劇中劇の問題編を30分ぐらいで提示して、そこから監督が失踪する舞台裏パートに移行する、まさに「カメラを止めるな」構成が映える作品ではないかと。


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