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【ミステリーレビュー】御手洗潔の挨拶/島田荘司(1987)

御手洗潔の挨拶/島田荘司

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島田荘司による、御手洗潔シリーズ初の短編集。

「御手洗潔の挨拶」というタイトルが示すとおり、御手洗潔の人柄に迫る意味合いが強く押し出されている。
風変りという印象は覆らないものの、そのバックボーンや行動の理由が、一部ではあるが提示され、御手洗潔という探偵役のキャラクター性を引き立てていた。
「占星術殺人事件」、「斜め屋敷の犯罪」で本格トリックの醍醐味を見せつけ、短編集で人物像を掘り下げたのは結果的には大正解で、以降のシリーズ人気を確固たるものにした作品と言えるのだろう。

御手洗の感傷を辿る「数字錠」、プロ顔負けのジャズ・ギタリストの一面をのぞかせた「疾走する死者」、安楽椅子探偵的に語り部の過去の不思議な話の答えを導き出す「紫電改研究保存会」、そして動物好きという意外な事実とともに過去の経歴が判明した「ギリシャの犬」。
いずれもコンパクトにまとめられているが、登場人物が魅力的に描かれており、謎解き要素の面白さに加えて、シリーズ全体における前提、あるいは世界観が理解しやすくなっていた。

「疾走する死者」と「紫電改研究保存会」は、視点人物が石岡ではないので、読み始めは戸惑うのだが、それも効果的。
特に「疾走する死者」では、外から見た御手洗&石岡のコンビを描いたことで、第三者からふたりがどう見えているか、という点も補足してくれている。
さすがにトリックは古典的というか、現代であれば非現実的すぎてミスリードとして切り捨てられそうなものも多いが、新たな古典ではある本作においては、それも味わいというもの。
他の短編も読んでみたい、というより、これを踏まえて、がっつり長編を読んでみたいと思わせる、不思議な力を持った作品であった。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


「数字錠」は、密室に見せて、実質的にはアリバイトリック。
明らかにおかしな確率論で怪しさは十分だったが、御手洗がどうしてそのようなミスリードを行ったのかにまで想像が及ぶと、なかなか切ない話である。
彼らがコーヒーではなく紅茶を飲む場面があるたびに、きっとこの話を思い出すのだろうな。
「疾走する死者」は、さすがに犯人はバレバレであり、死体移動トリックも、ある程度は想像がついた。
問題は、本当にそれが解答になり得るだろうか、という再現性。
あらすじなどでは、この事件について語られていることが多いようだが、確かに、これまでの御手洗シリーズっぽさがある短編なのであろう。

少し毛色が異なるのが「紫電改研究保存会」。
過去にあった不思議な話を飲みの席で語る二人組と、それを横で聞いていただけで解決してしまう御手洗。
ホームズの「赤毛連盟」を彷彿とさせるプロットだが、なんだかんだで読ませてしまう筆力は見事であった。
そして、クライマックスとなる「ギリシャの犬」。
振り回される石岡と、暗躍する御手洗。
御手洗の探偵としての優秀さだけでなく、狂言回しとしての石岡の存在価値も再評価できたのでは。

前述のとおり、トリックとしては陳腐化しているものもあり、単体で読んで面白いと言えるかは保証はできない。
一方で、御手洗潔の変人っぷりを知っていれば、別のベクトルでの興味深さが加味されて、二倍、三倍と面白さが増したことだろう。
シリーズものとして読み進めるつもりでいるのなら、2,3冊目に触れておくと良さそうな1冊である。

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