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【ミステリーレビュー】六法推理/五十嵐律人(2022)

六法推理/五十嵐律人

現役弁護士作家・五十嵐律人による青春×リーガルミステリー。



内容紹介


その悩み、一人で抱え込まずお気軽に無法律へ。

学園祭で賑わう霞山大学の片隅。
法学部四年・古城行成が運営する「無料法律相談所」に、経済学部三年の戸賀夏倫が訪れる。
彼女が住むアパートでは、過去に女子大生が妊娠中に自殺。
最近は、深夜に赤ん坊の泣き声が聞こえ、真っ赤な手形が窓につくなど、奇妙な現象が起きているという。
戸賀は「悪意の正体」を探ってほしいと古城に依頼するが……。
リベンジポルノ、放火事件、毒親問題、カンニング騒動など、法曹一家に育った「法律マシーン」古城と、「自称助手」戸賀の凸凹コンビが5つの難事件に挑む!


解説/感想(ネタバレなし)


「無料法律相談所」に所属する法律マシーン・古城と、自身に起きた奇怪な事件の相談に訪れて以来、助手として"無法律"に居ついてしまった夏倫。
現役弁護士の著者らしいリーガルミステリーに多重解決要素を組み込んだ形式で、提示される謎に対して、古城が法律上の見地からひとつの推論を導き出すと、"閃きの天才"夏倫がそれを下地にしつつもひっくり返して真相を暴くというのが基本スタイルのようだ。

法律がメインといっても、あくまで学生が運営する無料相談所。
しかも、正式な所属は古城のみ。
証拠や証言を巡っての法廷バトルや裁判官との駆け引きなどは、一部を除いて見られず。
大学生が遭遇するトラブルに法律を本気で持ち込んでみたら、という一風変わった青春ミステリーと読むこともできそう。
テーマがテーマだけに、重たい部分はあるのだが、書き口はライト。
キャラクター要素も相応にあって、夏倫と出逢ったことを契機に法律マシーンが過去と向き合い、人間として成長していく様は、もう少し先まで読みたくなる。

依頼者として夏倫が古城のもとにやってくる「六法推理」、リベンジポルノの被害にあったYouTuberから協力を依頼される「情報刺青」、"無法律"で古城が孤立するきっかけとなった事件の決着を描く「安楽椅子弁護」。
勝手に合鍵を作って金品を窃盗しても、犯人が実親であれば逮捕できないという抜け道を突いて娘に執着する毒親と縁を切りたいという相談が、思わぬ事件に発展していく「親子不知」。
そして、"無法律"が消滅の危機に瀕している中、夏倫にカンニング疑惑がかけられて、古城の過去とも繋がり出していく「卒業事変」の全5編。
まだ不完全燃焼な側面もあり、これは続編も期待できるのでは、と調べてみたら、4月に第二弾となる「密室法典」が刊行された様子。
シリーズ名はどうなるのだろう。



総評(ネタバレ注意)


ひとつひとつの章は独立しているものの、思わぬところで繋がっていたりするのが連作短編の面白いところ。
各短編は、イヤミスとは言わないまでも、どこかモヤモヤした部分を残したまま終わってしまう話が多い。

その最たる例が、「安楽椅子弁護」だ。
テーマとなるのは、友人である三船が巻き込まれた火災事件。
弁護士資格を持たない古城が、被害者である三船を救う唯一の方法として本人訴訟に踏み込むものの、暴走とも言える無謀な判断に、古城は無法律内で孤立し、結果として他のメンバーは彼の前から去ってしまう。
古城が過去と向き合うためには、これの解決が不可欠。
誰もがそう思ったはずだが、彼は真相は闇に葬ることと引き換えに、裁判での勝利を選ぶ。
いかにも法律マシーンらしいエピソードではあるも、三船との関係も亀裂が生まれ、何もすっきりするものがないラストシーンは、後味として強烈な苦みを与えていた。

一方で、それが「卒業事変」においては巧みなブラフになった側面もある。
古城と確執がある綾芽が登場することで、再び孤立した過去と向き合うことになるのだが、この流れは、ミステリーを読み慣れた読者に"火災事件とも繋がっていくのでは"と思わせるには十分な前フリだっただろう。
事件の性質は異なるものの、解決していない事件の真相がここで明らかになる可能性は十分に感じられる。
しかしながら、それを外してきたのが、著者の上手いところ。
繋げてきたのは「情報刺青」で、事件の性質的には確かにこちらのほうがしっくりくるにも関わらず、「安楽椅子弁護」のインパクトが強すぎて、見事なカムフラージュになっていた。

なんだかんだ、三船との和解も描かれ、無法律は存続決定。
結局火災が放火だったのかは有耶無耶になっているにも関わらず、最後の最後で大団円とすることで、それまでのモヤモヤを吹き飛ばしてしまっているからズルい。
綾芽が加わり、人間関係に幅が出てきたことに加え、夏倫については、まだまだ隠しているバックボーンが多いはず。
この勢いで、いざ続編へ、といきたいものだ。

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