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【ミステリーレビュー】倒産続きの彼女/新川帆立(2021)

倒産続きの彼女/新川帆立

「元彼の遺言状」の続編となるシリーズ第二段。



あらすじ


倒産の危機に陥ったゴーラム商会。
祖母とふたりぐらしをしている苦労人の弁護士・美馬玉子は、「会社を倒産に導く女」として社内タレコミがあった経理課の女性の身辺調査を行うことに。
通常であれば、そんなはずはないと一蹴したくなる案件だったが、上司である津々井の指示でもある。
仕方なく、苦手としている先輩・剣持麗子とともに調査に乗り出した矢先、ゴーラム商会の「首切り部屋」と呼ばれる小部屋で、本当に首を切られた死体が発見され、玉子は気を失ってしまう。



概要/感想(ネタバレなし)


本作の主人公は、美馬玉子。
前作の主人公であった剣持麗子は、引き続き重要な立ち位置ではあるものの補佐的な役割になっていて、引っ掻き回す我儘キャラが、先輩になって後輩を導くポジションになって頼もしさを見出す、そんな感慨がある。
エンターテインメントに特化したミステリーというスタンスは変わらないのだが、前作よりも企業弁護士の内側が想像しやすくなっている気も。
法廷を絡ませない弁護士モノとしての新鮮さは、まだまだ失われていなかった。

連続して勤務先が倒産している女。
これが意図的であれば、どのように行ったのか、というテーマを這わせつつ、実際に関係者の死体が発見されたりするエンタメ性を持たせて、難しくなりすぎないように調整するバランスが絶妙。
テンポも良くて、勢いに任せて一気読みしても大丈夫なレベルだ。
会社にも法人格があると考えれば、前代未聞の連続殺人。
ミッシングリンクを導き出して、その背景を調査と推理で炙り出していく過程は、まさに王道のミステリーであった。

まだまだ剣持麗子が飽きられていない中で、主人公の交代に踏み切った潔さも奏功しているように思う。
どこかぶっ飛んでいた麗子に対して、玉子は読者が感情移入しやすいキャラクター。
弁護士ということでステータス上はハイスペックだが、介護の問題を抱えていたり、コンプレックスから麗子に苦手意識を持っていたり、庶民派的な感覚を与えるように描かれている。
どうしても、麗子は物語の中心にいてほしい気はしてしまうが、視点人物については、読者の感覚に近いワトソン役に担わせた方がハマるのかもしれない。



総評(ネタバレ強め)


「元彼の遺言状」が独特な作風だったこともあり、シリーズ化してどうなるんだ、という期待と不安が混ざり合っていたのだが、読んでみれば杞憂だったというパターンだ。
前作よりも事務所内の構図が見えてきて、チーム感も増したので、今後も色々な膨らませ方が出来そう。
案外、群像劇風の方向にも持っていけそうだ。

切り口が面白いな、と思ったのは、企業弁護士という設定なので、被害者や関係者の過去といった、警察小説であれば真っ先にあたりをつける部分がしばらく空白になっていることだ。
あくまで、近藤が在籍していた会社を探っていく中でミッシングリンクを見つけていく。
求めている真相が、必ずしも殺人事件のものではない、という異質さがスパイスとなっているし、企業を救うことが、人の命を救っているという結果に繋がるスカっと感も手伝って、こういうドラマの作り方もあるのだな、と。
新進気鋭のリーガル・ミステリー。
第二段でもクオリティは低下せず、更に安定感すらもたらした点では、著者の筆力・構成力は確かなのだろう。

どんでん返しの黒幕はあっさり退場してしまったけれど、組織としては謎を残したままでもあるので、玉子が主人公になる場合は、ここを深掘りする機会もあるのかな。
第3弾は、再び剣持麗子が主人公になっての短編集。
今後のアプローチが読みにくいところではあるが、長編においては毎回主人公が変わる、という手法もあり得るのかも。
本作でいうと、法律マニアの美法が、キャラ立ちに対して活躍の場が少なかったので、伏線という気がしないでもない。

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