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【ミステリーレビュー】イデアの再臨/五条紀夫(2024)

イデアの再臨/五条紀夫

「クローズドサスペンスヘブン」の奇才・五条紀夫による"メタ"学園ミステリー。



内容紹介


朝起きたら、壁に四角い穴が空いていた。
あるべきものがない?
これって――世界から が消えている!
誰も異変に気がつかない。
混乱する僕に突然、金髪の同級生が告げる。
「ここは小説の中の世界。俺たちは登場人物だ」
次々と消されていく言葉、混沌を極める世界で、僕たちは犯人の正体を突き止められるのか。
紙の本ならではのギミックが炸裂する究極のメタ学園ミステリー、爆誕。

新潮社



解説/感想(ネタバレなし)



前作「クローズドサスペンスヘブン」を読んだ際に、コミカルなキャラクターを上手く料理する作家だな、という感想を持ったのだが、更に振り切ってきた印象。
ドタバタコメディタッチの学園ミステリーとなっている。

設定が特殊であるのも、前作同様。
小説の世界から言葉や現象を奪っているのは誰か、というテーマで小説内の主人公と相棒が駆けずり回る、一風変わったフーダニットだ。
メタ視点が存在することが前提となっており、登場人物の誰かが死んで、その犯人を当てる、というシンプルなパターンには帰結せず。
かといって、誰も死なない日常の謎の枠組みにも収まらない、それ以上のカテゴライズが意味を成さない唯一無二のミステリーと言えるかもしれない。

紙の本であることが重要なのは納得。
電子書籍でもいけなくはない気もするが、こっちも、そっちも、あっちまでギミックとして意味があるのね、と気付かされたときのワクワク感は確かに紙の方が大きいだろう。
メタ視点が強いだけに、謎解きゲームのギミックに近いのかな。
それぞれの特殊能力を組み合わせて、相手の能力に勝るカードを作る、というのが最後の鍵になる展開は、謎解きそのもの。
しかし、その裏の裏を読んだオチが待っているので、よくそこまで考えつくなと感心するか、くだらない反則技だと捉えるかは別問題として、驚かされることは間違いない。

何がどうネタバレになるのかも上手く語り切れないのがもどかしいところ。
とりあえず、消されたワードにミスリードがあると踏んで、叙述トリックを想定した自分は完敗であった。



総評(ネタバレ注意)


とにかく、勢いに圧倒される。
なかなかに面倒な設定なはずだが、勢いに飲み込まれて読んでいたら、いつの間にか理解してしまっている。
そんな感覚のまま、最後の一ページに辿り着いた衝撃。
まさか、長編ミステリーにおいてこんなオチがあり得るのか、と。
清々しいほどにふざけ倒しているので、ある意味で誰かに伝えたくなる1冊だろう。

もちろん、ノリと勢いだけでミステリーは成立しない。
これだけ奇想天外の設定を作り込める著者なのだから、登場人物をあえてステレオタイプの学園小説に寄せる必要もなかったはずだが、それをしたことで小説の中という概念が理解しやすくなった。
ベタな行動をとり、プログラミングされたような発言をする。
だからこそ、空欄が多くなった文章の中でもストーリーが繋がるし、読者が勝手に脳内補完をしてしまうがために、ミステリー的な仕込みもしやすい。
これが緻密さの一例で、奇抜なキャラクターが犯人であれば、ヴィジュアルが確定していないことは怪しさに直結するだろうが、ここまでベタなキャラしかいないとなると、確定していないことに気付かせないのだ。

また、犯人が確定してからの見どころが残っているというのも、この設定だからこそ。
警察だろうが、探偵役だろうが、ルールにさえ則っていれば消すことができる犯人。
犯人の特定以降は、メタ認知能力者たちによる能力バトルが開始され、もはやミステリー要素は前フリでしかなかった。

名前がついている登場人物は誰も死なない本作。
しかし、車輪を物語から奪ったことで未曽有の交通マヒを発生させ、ミステリー小説史上でも類を見ないレベルの死傷者を全国的に出してしまった犯人のスケールの大きさよ。
結果的に世界は元通りになったので、ノーカンということでよいのかしら。
いずれにしても、ヒロインがヒロイン故にモブ寄りの主人公に邪見にされるミステリーなんて、後にも先にも本作しか存在しないのでは。

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