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【ミステリーレビュー】名探偵の証明 蜜柑花子の栄光/市川哲也(2016)

の証明 蜜柑花子の栄光/市川哲也

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"名探偵の証明"シリーズ三部作の完結編。

あらすじ


密室館の事件から1年後、蜜柑花子のもとにやってきたのは、"名探偵"の資質を持つ祇園寺恋。
母親を人質に取られ、脅迫を受けているという恋だが、人質解放の条件は、過去に関わった4つの未解決事件を、蜜柑に解明させること。
タイムリミットは6日間、移動は車のみ、という悪条件。
事件以降助手となっていた日戸も含めて、大阪、熊本、埼玉、高知の推理行に繰り出す3人は、無事制限時間内に事件を解決させることができるのか。



概要/感想(ネタバレなし)


4つの過去の事件と向き合う構成を踏まえ、連作短編のような作風になっている本作。
第一弾でマクガフィンのようになっていた事件がメインテーマになっていたり、順番に読んできた読者ならニヤリとしてしまう要素もあるのだが、名探偵の宿命をテーマにメタ的視点を強めた結果、蜜柑が背負う十字架が過剰に重くなってしまった感があり、全体的に漂うのは悲壮感。
派手なギミックの事件が小気味よくポンポンと続く一方で、常に空はどんよりと曇っているような印象である。

この"名探偵"を極端に解釈した設定さえ受け入れられれば。
派手な事件の連続と、その一連の流れの中に込められた悪意、更にその裏をかくどんでん返し......と、本質としてはミステリー的な構成の妙を楽しめる作品。
前作を読んでいるのが前提となるが、恋というジョーカーが最初から登場しているのもポイントで、信じるべきか、疑うべきか、最終章まで読者に委ねっぱなしで進行するのも、深読みを促す本作の肝と言えそうだ。



総評(ネタバレ注意)


結局のところ、"名探偵"をメタ化した概念が、最大公約数と微妙にズレていたのが、賛否両論を生んでいるのかな。
蜜柑の思想も、恋の思想も理解できず、かといって読者の代弁者的な立ち位置にいる日戸にも(前作の禍根もあって)感情移入できず、ハッピーエンドとして消化しきれなかった部分がある。

ラストの反転攻勢も、なんだか見せ方がもったいない。
日戸と中葉が協力して、名探偵の推理なしで事件の真相を見抜くなんて、それはそれは胸熱な展開が、結果だけ事後報告で。
せめて、日戸がそれに気づく伏線があれば、と思うのだが、やはりこの世界では脇役は脇役なのだろうか。
ラストについても、ずっと知りたかった事実が知れて良かったという気持ちと、唐突過ぎて、戸惑う気持ちが混在。
うまく言えないが、本作内の伏線ともう少し有機的に結びついていれば、とてつもないカタルシスになったのでは、と。

完結編ということで、もっとすっきりした気分で終われるかな、と思っていたものの、完全に霧を晴らしてくれないのが「名探偵の証明」シリーズといったところか。
"地獄の傀儡士"化した感のある恋の存在感は更に強まった形。
学生時代の蜜柑による外伝も気になるが、ダーティーヒロイン・恋を主人公にしたスピンオフも、この作風だとハマるかもしれないな。

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