【ミステリーレビュー】星読島に星は流れた/久住四季(2015)
星読島に星は流れた/久住四季
"トリックスターズ"シリーズで知られる久住四季による本格ミステリー。
あらすじ
天文学者・ローウェル博士が、自分の住む孤島で毎年開催している、天体観測の集いは、とある理由で応募が殺到するとのこと。
家庭訪問医の加藤盤は、家族との約束を果たすために試みに応募をしてみたのだが、驚くべき倍率を潜り抜けて当選してしまう。
島に招待された7人と、ローウェル博士。
実質的なクローズドサークルの中で、参加者のひとりが死体となって発見された。
概要/感想(ネタバレなし)
著者はライトノベルが主戦場のようで、登場人物のキャラクターが丁寧に描かれていて、読み口もやわらかい。
ミステリーとしての事件が発生するのは、小説の半分を読み進めてからになり、ともすれば前置きが長い、盛り上がるまで時間がかかる、となってしまいそうなところなのだが、キャラクターの掘り下げや、隕石探しといったイベントがテンポ良く展開していくので、体感としてはあっという間。
印象的なシーンが多い一方で、コンパクトにまとまっていて、推理ゲームとしてだけではなく、視点人物・加藤盤の精神的な成長(前進)の物語としても面白く読めるだろう。
設定そのものはとても古典的。
ただし、どことなくファンタジックな世界観と、この手のミステリーにはありがちな悪役の存在や、疑心暗鬼でチームがバラバラになるといった要素が薄いことにより、なんだか新鮮さを感じるのである。
登場人物の全員が、多少の温度差はあるにしてもフレンドリー。
結果的には危ない橋も渡ることにはなるのだが、ヒリヒリした緊張感がない和やかな空気を纏ったまま最後まで進んでいくので、なんとも独特というか、作品の個性になっていたのではなかろうか。
総評(ネタバレ注意)
なんというか、ベタをベタに見せない手法が上手いなと。
結末だけを見てしまえば、いかにもセオリー通り。
トリックは、実験結果を踏まえて、不思議だと思った箇所について見方をひっくり返すと答えに辿り着く、という正統派のロジックパズルだ。
目新しさはないのだが、先に犯人が炙り出された中で、後追いで謎を紐解いていくという倒叙的なスタンスを噛ませることで、伏線がするすると回収されていくカタルシスを味わうことができる。
また、どんでん返し的な黒幕の存在や舞台装置についても、ベタすぎて一度考えから外した展開が戻ってくる感覚。
これまた、ミステリーの面白さだけを追求するのではなく、小説としての面白さも付随しているため、ベタな結果で面白味に欠けるな、とはならないのである。
上手くことが運びすぎ、というツッコミが入りそうな強引さもないわけではないが、過去、何度かトライして上手くいかなかった、という設定があるので、納得はしやすい。
何より、登場人物が少ないのが、読みやすさに繋がっていた。
シンプルイズベスト。
複雑な人間関係を張り巡らせて、迷う余地を与えるミステリーが多い中、個性を語れるレベルで絞り込み、人物像を掘り下げたのが奏功。
誰も犯人であってほしくないし、誰が犯人であってもおかしくない状況を作り出し、それぞれが一歩を踏み出すエンディングに繋がっていく。
黒幕的な真犯人の顛末も含めて、これほど読後感が清々しいミステリーも少ないのでは。