【ミステリーレビュー】メインテーマは殺人/アンソニー・ホロヴィッツ(2017)
メインテーマは殺人/アンソニー・ホロヴィッツ
日本では2019年に文庫化された"ホーソーン&ホロヴィッツ"シリーズの1作目。
原題は「The Word Is Murder」。
「カササギ殺人事件」と同様に山田蘭が翻訳を担当しており、デザインにも統一感があるが、主人公が異なる別シリーズとなっている。
ここにきて、作者本人をワトソン役として登場させる正統派のミステリー。
当然ながら作中で語られる殺人事件はフィクションであるが、一人称でのエッセイ風の語り口と、実際の作家生活を作中に織り込むことで、現実とクロスオーバー。
日本人からすると、やや自分語りが過ぎる感はあるものの、本格ミステリーにリアリティを持たせる手法として、こんなやり方があるものか、と驚かされた。
資産家のダイアナ・クーパーが、自らの葬儀の手配をしたその日に絞殺された。
この不可思議な事件に、顧問として公認捜査を行うことになった元刑事ホーソーンから、ホロヴィッツは「ホーソーン登場」というタイトルで、この事件を本に書かないかと持ち掛けられる。
自分のことを語りたがらないホーソーンに振り回されながらも、徐々に事件にのめり込み、そして巻き込まれていくホロヴィッツ。
王道すぎるほど王道、あえての真っ向勝負と言え、目新しさはないが、だからこそ面白いのである。
冒頭、ホーソーンに指摘されて書き直しを行う描写をすることで、フェアプレー精神をアピール。
やや冗長なきらいはあり、面白くなるまでに時間がかかる側面はあるが、事件を正確に記した故、と捉えておこう。
欲を言えば、もう少し探偵役の魅力が伝わりやすければ。
本作ではビジネスライクだったホーソーン&ホロヴィッツが、続編ではどこまで信頼性を深めているかに期待である。
【注意】ここから、ネタバレ強め。
結局のところ、真犯人に殺されかけたホロヴィッツは、間一髪で命を助けられたことによってホーソーンを信頼することになる。
それまでは対抗心のほうが強く描写されていただけに、ホロヴィッツの急激なホーソーン評の変化に戸惑うのだが、それはそれで生々しいとも思ったり。
事件としては、徹底したフーダニット。
被害者が自ら葬儀の手配をしたうえで殺された不可解さはずっとくすぶり続けるものの、それがあることによって、真相になかなか気付けない。
これがなければ、殺され方の違いによって、メインターゲットがダミアンであったことが明確になるし、そこから、有名なサイコパス診断の要領でダイアナ殺害の動機にも辿り着けたかもしれない。
ダイアナの過去の轢き逃げ事件を絡ませることで、いかにもダイアナをメインターゲットとして見せていたのは見事だった。
ただし、キーになるダイアナからのメッセージ、あれは原文で提示されていないと、いや、提示されていても英語圏でスマホを普段使いしていなければノーチャンスだったな、と。
固有名詞が、スペル修正機能で"損傷"に変換されたなんて。
色々な意味で、文化の違いを見せつけられる1冊。