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【ミステリーレビュー】依頼人は死んだ/若竹七海(2000)

依頼人は死んだ/若竹七海

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女探偵・葉村晶シリーズの短編集。

正直なところ、これがシリーズ1作目だと思って読み始めたのだが、2作目だったようだ。
序盤で、はやくも続編感が出ていたので焦った焦った。
本編にはそこまで影響がなかったので一安心。
文春文庫から出版されたものとしては1作目だったことから、すっかり誤解していた。

勘違いついでに、"手加減をしない"女探偵とのことだったので、もっと実力行使系の主人公だと思っていたものの、こちらも予想が外れた。
執念深い、あきらめが悪い、あるいは物事をずけずけ言う、といった側面が、"手加減をしない"に集約されているようで、個人的には、読了した今でもそこには納得していないかな。
もっとも、単行本化するにあたって、別の主人公で書かれた作品も葉村晶版として書き直されているらしい。
となれば、キャラクターが定まっていないのも当然で、続編に進めば、そこは埋まっていくギャップなのかもしれないけれど。

内容としては、ハードボイルド風に描かれるイヤミスといったところ。
よくもまぁ、こんなにも嫌悪感を抱かせるタイプの登場人物を、多様な方向から次々と描くことができるものだ、と思ってしまうぐらいで、苛々を抱えながら読むことになるのだが、それでもページを捲る手が止まらないのは、著者の筆力ということになるのだろう。
個人的な好みとしては、パズル要素が強い本格ミステリー派で、ハードボイルドはそこまで。
そのため、どハマりすることはなかったが、コンパクトな構成でしっかりとオチをつける巧妙さには唸らされる。
続編を読むべきか、前日譚を読むべきか、という悩みが生まれてしまった。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


「濃紺の悪魔」、および「都合のいい地獄」の不条理的な展開について、今後どうするのだろう、というのは気になるな。
本作を読んだ時点では、気持ち悪さや謎だけ残って、すっきりしない。
だから続きを読まなきゃ、というのも腑に落ちないのだが、「アヴェ・マリア」で残った謎の行方は持ち越されているし、読むしかないのだろうか。
引っ張っておいて、のらりくらり催眠術的な暗示を魔法として使い続けるのであれば、ちょっと好みからは外れるので迷うところだ。

解決編に多くのページを割かないのは、ハードボイルドをあまり読まない身としては新鮮。
過程を重視し、真相と思われる内容は、最後の数文だけで語るのみ。
その後の顛末は多く語らず、いずれも確定事項とは言い切らないモヤモヤ感も、余韻を残すのに効果的に機能している。
精神的にズシっとくるのが多いため、短編とはいえサクサク読むには体力が要るのだけが難点か。

評判によると、葉村晶の不運さにおいては、この辺りはまだ序の口らしい。
もう誰かの不幸話は読みたくない、という気持ちはあるものの、怖いもの見たさが生まれてくるのも事実。
気が向いたら、長編も読んでみようか。

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