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【ミステリーレビュー】虚構推理 スリーピング・マーダー/城平京(2019)

虚構推理 スリーピング・マーダー/城平京

岩永琴子を主人公とする「虚構推理」シリーズの長編第二段。



あらすじ


「二十三年前、私は妖狐と取引し、妻を殺してもらったのだよ」
妖怪と人間の調停役である岩永琴子は、大富豪の老人から、親族に自身が殺人犯であると認めさせるように依頼を受ける。
しかし、妖狐の力を借りた老人には絶対的なアリバイが。
妖怪は存在する、しかし、それを周知してはならないという前提において琴子は、老人が妻を殺すことができた、という嘘の真実へ導くべく、不死身の体と未来を確定する能力を持つ恋人・桜川九郎とともに親族たちの前に姿を現す。



概要/感想(ネタバレなし)


怪異が人間に干渉した事件を、人間が起こした事件だという虚構に置き換えることを目的とした特殊設定ミステリー。
本作において特徴となるのは、誰を犯人に据えるかが決定されていること。
事故だった、自殺だった、という選択肢を封じており、ある種の縛りプレイのような状況を生んでいる。
読者からしたら、絶望的な難題であろう。

しかし、メタ的に考えてみれば、思考プロセスは、怪異の犯行と思われた事件の真相は、人間によるトリックでした、という古典的な設定と同じ。
父の代わりに遺産問題に放り込まれて、客観的な視点を持っている莉音のほうに読者は感情移入していくことを踏まえると、読み口としては、通り魔に殺されたと思われていた祖母の死は、実は別の真相があったのかもしれない、と推理していく一般的なミステリーに近いものになっていた。
これを、読みやすさ、ミステリーらしさとして評価するのか、虚構で世論を操作して怪異とバトルする「虚構推理」の醍醐味が薄まったと捉えるかで、感想は割れそうだな、と。

もっとも、最後には本作だからこそのどんでん返しも待っている。
全体的に、怪異の存在感が薄く、人間のエゴを明るみに出すアプローチに終始したのはもったいない気もするが、とっつくやすさとして、こういう作品も必要なのかもしれない。



総評(ネタバレ強め)


さて、全6章で構成されている本作だが、うち「スリーピング・マーダー」として語られるのは、4章、5章のみ。
琴子が高校生時代の前日譚からスタートし、琴子にとっては宿敵である六花とのエピソードを挟み、ようやく3章で直接的な前フリに入る。
世界設定が独特、かつキャラクター小説の要素もあるので、自己紹介がてら日常部分にページを割くのも悪くないのだが、そこに伏線的な仕掛けがあまり見られず、特に六花とのエピソードが蛇足になっていた気がしないでもない。

本編と言える「スリーピング・マーダー」は、大富豪の遺産にまつわる兄弟の因縁、といういかにもな設定。
なんだかんだでワクワクしてしまい、莉音が想定解に辿り着いたときには、十分にカタルシスを味わうことができる。
そして、結果的に妖怪の仕業ではなかった、という舞台装置を根本からひっくり返す真相まで飛び出すのだから驚いた。
これについては、ミステリーとしてはフェアではない後出し要素が強いものの、琴子が持つ人間と怪異との間にあるべき倫理観を知ることができ、おまけとしては贅沢すぎるどんでん返しと言えよう。

真犯人が判明してからの取り乱し方というか、墓穴の掘り方というか、それまでのキャラクターから想像できない強引さがあって、ややご都合主義に映る部分が否めないのだが、ここは九郎の必要性を示すためには仕方なかったところか。
怪異が表に出てこない事件となると、彼の能力は持て余し気味。
勢いで読む分には楽しいのだが、この設定を活かしたうえでミステリーとしてまとめるプロット設計は本当に難しそう。
詰めの甘さは、多少目をつぶるべきかもしれない。

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