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【ミステリーレビュー】推理大戦/似鳥鶏(2021)

推理大戦/似鳥鶏

世界中の名探偵が「聖遺物」を賭けた推理バトルを展開する、似鳥鶏のミステリー長編。



内容紹介


日本のある富豪が発見したという「聖遺物」。

世界的にも貴重なその「聖遺物」を手に入れるため、世界中のカトリックそして正教会は、威信と誇りをかけ「名探偵」を探し始めた。

いったい、なぜ?

それは、「聖遺物争奪」のために行われる、前代未聞の「推理ゲーム」に勝利するため。

アメリカ、ウクライナ、日本、ブラジル――。選ばれた強者たちは、全員が全員、論理という武器だけでなく「特殊能力」を所有する超人的な名探偵ばかりだった。つまり、全員が最強。しかし勝者は、たったひとりだけ。

つまり、真の名探偵も、たったひとり――。

世界最強の名探偵は、誰だ?



解説/感想(ネタバレなし)


大きくふたつに分かれた構成。
前半の4章は、推理ゲームに参加する各国の名探偵が、どのような能力を持っていて、どのような立場の人間なのかを示す紹介パート。
ともすれば、ここにページを割きすぎではないか、と思いきや、ひとつひとつが、名探偵がその能力を駆使して事件を解決するライトな短編になっており、ここでしか登場しない相棒役も、なかなかいい味を出している。
本編での能力説明を省き、テンポを維持するだけでなく、個々のキャラクターに万能感を抱かせることに成功しており、読めば読むほど、本編が楽しみになる惹きつけになっていた。

後半は、言わなくてもわかる決戦の本番。
聖遺物を所持していながら、推理ゲームの餌にしてしまうのだから、この主催者はいかにも"ミステリーにおける富豪"なのだが、どうせだったら生前に見たかっただろうに。
前半の紹介を経て、遂に名探偵たちが集結。
中国代表だけ、少しイレギュラーな登場にはなっているが、北海道を舞台に、古典的な雪山山荘的な設定でゲームに突入していく。
ホスト側として手伝いに来ている廻と大和も、ゲームに絡む可能性は冒頭で示唆されており、真相は何だ、に加えて、誰が勝つのか、の要素が入り込んでくるから面白い。

通常、こういう設定のミステリーは、疑心暗鬼の中で部屋に閉じこもった者から殺されるのがお約束だが、そこはさすが名探偵たちと言っておこう。
ゲームと認識しているとは言え、殺人は殺人。
しかも、国の代表として、明確なタスクをもらって参加している。
その中で、最後まで険悪にならず、和気あいあいとした空気感のまま真相まで突き進むので、変な重苦しさはないし、読後感も悪くない。
肝心なゲームの展開は、制約を課しすぎた感があり、もう少し上手い料理方法もあったのでは、と思ってしまうが、それを上回る、名探偵勢揃いのワクワク感。
設定にしても、オチにしても、なんとなくアドベンチャーゲームのシナリオのほうがしっくりきそうで、エンタメに振り切って読むべきミステリーであろう。



総評(ネタバレ注意)


それぞれ独立させてシリーズ化できそうな能力を持つ、個性的な名探偵。
ひとりひとりを書き切ったうえで、本筋に入っていくという手法は、思いついたからといってなかなかできるものではない。
シャーロックホームズや金田一耕助といった既存の名探偵たちを集結させるコラボ作品、オマージュ作品ならいくつも存在しているが、名探偵の創出からやるぞ、となれば気の遠くなる作業だ。
その意味で、ずっと探していた、一番読みたかった推理小説だったと言えよう。

ただし、その反動で難しかったのは、犯人役の選択肢か。
ゲーム参加への経緯が書き込まれている名探偵たちは選択肢から除外するしかない。
叙述トリックを疑う場合、主催側が名探偵に成り代わって紛れ込んでいる可能性があり、例えば、前編のマテウスと後編のマテウスは別人である可能性があったが、あくまでそれはメタ的な視点。
わざわざ参加予定の名探偵の振りをするリスクを犯すよりも、架空の参加者として紛れ込めばいいだけで、作中でその役割ができるのは本編ではじめて登場するシスター・リンに絞り込まれる。
もちろん、抜け駆けしようとして勢いあまって殺してしまった、というケースも考え得るが、だとすると、その後の推理合戦の理由付けに窮するから、いかにも怪しいシスター・リンでなければ、ホスト側のどちらか一方だろう、という当てずっぽうが通ってしまうのだ。

もっとも、そんな予想をしていたとて、想像の斜め上をいく結論が示されるのだけれど、してややれたと捉えるか、反則だと捉えるかは両論ありそう。
外部犯と多重人格の合わせ技、というのは、ノックスの十戒やヴァン・ダインの二十則と照らしても正攻法ではなく、あまりにノーチャンス。
"意外な犯人"の動機が聖遺物の奪還であれば、なぜ、被害者の荷物を漁らずに(漁っていれば、あっさり聖遺物の場所はわかったと思われる)、凝ったブラフをあちこちに仕掛けたのだろう、というのも詳細には語られなかった。
何より、せっかく最強の名探偵たちが集まったのに、みんなしてそのミスリードに引っかかりまくっているのが切ない。
人狼ゲーム風でも、ダンガンロンパ風でも良いから、名探偵たちの推理バトルを、もっと競技性のある形で見たかったというのが本音だろうか。

とはいえ、前述のとおり、期待値の高さをずっと維持するワクワク感は物凄く、リアリティよりもインパクト重視のミステリー読みであれば、この贅沢さはたまらないはず。
後に続く人はなかなか出てこないだろうが、タイトルと表紙を見ただけで読みたくなる1冊である。

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