【ミステリーレビュー】invert 城塚翡翠倒叙集/相沢沙呼(2021)
invert 城塚翡翠倒叙集/相沢沙呼
相沢沙呼による"城塚翡翠"シリーズ第二弾。
内容紹介
解説/感想(ネタバレなし)
「medium 霊媒探偵城塚翡翠」の続編となる本作。
冒頭に前作の結末に触れていることが記されており、実際、本作を読んでしまったら前作における"すべてが、伏線。”のインパクトが薄まってしまうため、ご注意を。
さて、本作におけるキャッチコピーは"すべてが、反転。”
バディものの本格ミステリーだった前作とは作風をガラっと変えて、倒叙形式のミステリーに特化した内容になっている。
チェックメイトに至る場面での翡翠の口上や事件の構成面など、倒叙モノの代表格である「古畑任三郎」や「刑事コロンボ」のオマージュも見られ、犯人視点でじわじわと追い詰められていくスリルはきちんと踏襲。
そのうえで、クオリティの高いギミックが至るところに仕掛けられていた。
はじまる前から勝敗が決しているだけに、もう少しテンポが速くても良かった気はするが、犯人は特定できるものの証拠は別に見つけ出す必要がある、という"霊媒"の特性は、なるほど、倒叙モノに活かしやすいのだな。
なお、「信用ならない目撃者」では、マジックショーに出演している奇術師として、「午前零時のサンドリヨン」の酉乃初と思われる女性が登場。
ここで作品がクロスオーバーするかと、どちらも読んでいる読者ならニヤリとさせられた部分だろう。
総評(ネタバレ注意)
見どころになるのは、翡翠に対して犯人たちがどのようなスタンスで挑むのかであろう。
「雲上の晴れ間」の犯人である狛木は好意を寄せ、「泡沫の審判」の末崎は関わりたくない相手と見なす。
もっとも、先手が打てる翡翠にとっては、それすら手のひらの上。
「medium 霊媒探偵城塚翡翠」を読んでいる読者は、翡翠の狙いがわかっている状態で、そうとは気付かない犯人の視点を読むという複層的な面白さがあった。
更に巧妙だったのが、「信用ならない目撃者」の雲野との情報戦。
"霊媒"の嘘が暴かれ、捜査にも圧力をかけられ、後手にまわってしまう翡翠。
シリーズ最大の好敵手になるか、と思わせたうえでの反転である。
あざといやり口を読者に植え付けてきたからこそ活きてくるどんでん返しは、さすが、"すべてが、伏線。”を完遂させた相沢沙呼だと感心するほかない。
もったいないのは、その副作用として、翡翠のキャラクターが"ゆるふわ"的な方向にデフォルメされすぎたきらいがあること。
このオチに持っていくために、翡翠のイメージをわかりやすく固定する必要があったのは理解するのだが、イロコイ作戦だった狛木はともかく、女教師である末崎に対しても、そのキャラを演じる必要があったのかは微妙なところ。
特に末崎には同情の余地が多分にあっただけに、空気を読まずに推理力でぶん殴る翡翠のスタンスが鼻についてしまい、離脱を生んでしまった感がある。
油断を生むため、と一応の理屈はつけられているが、相手によって作戦を変えるのであれば、演じるキャラクターも変えたほうが余計な株を落とさずに済んだろうに。
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