【ミステリーレビュー】廃遊園地の殺人/斜線堂有紀(2021)
廃遊園地の殺人/斜線堂有紀
"廃墟探偵"シリーズの第一弾となる斜線堂有紀の長編ミステリー。
内容紹介
解説/感想(ネタバレなし)
プレオープン時に発生した銃乱射事件によりリゾート化を断念して放置された廃遊園地、イリュジオンランドを舞台にしたクローズドサークル。
"廃墟探偵"と言うからには廃墟が舞台になるのは既定路線だが、広大な遊園地となれば、考え得る限りの最大級のスケールである。
いきなり邪道をぶち込んできただけに、インパクトは絶大。
遊園地とクローズドサークルを掛け合わせた連続殺人は、かなり新鮮だ。
探偵役は、廃墟マニアの眞上。
コンビニバイトでフリーター生活をしながら、廃墟を巡って写真を撮るブログは、その筋では有名らしい。
彼のキャラクターについては、まだ掴み切れていない印象。
廃墟マニア、という属性だけでは飽き足らず、コンビニ業務の経験から洞察力を発揮したり、恵まれた体格と運動神経によってアクションも可能だったりと設定が盛り盛りなうえ、その背景は謎に包まれている。
明確な相棒キャラがいなかったこともあり、そこまで深掘りされず設定が渋滞しているのが足元なので、もう少し自分語りしてほしかったかな。
その他の登場人物については、一部を除いてネーミングが適当。
凝った名前をつけられている人物はレギュラーになるのかな、なんていうメタ読みが出来てしまうが、壮大な設定の説明にページを割いていることもあり、登場人物が覚えやすいのはメリットとも言えよう。
文庫版は、ほぼ全編がリライトされているとのこと。
当初あった読みにくさが解消されていると思われるのだが、それでも誤植や校正ミスが散見され、スムースに読めないのはもったいないな。
ちなみに、サイン本を購入したのだけれど、可愛くない設定のギャニーちゃんが著者の手書きだと妙に可愛い。
2025年に第二弾が刊行されるようなので、そちらも楽しみにしておく。
総評(ネタバレ注意)
ミステリーとしては思った以上に正統派。
廃遊園地ということで、アトラクションを使った大掛かりなトリックでもあるのかと思いきや、舞台装置として機能はしているものの、ロジック重視の種明かしはむしろ本格主義である。
最もアクロバットだったのは、トリックではなく眞上のダイナミック野宿では。
犯人を当てるだけなら、消去法で難しくないのだが、全貌まで見抜くには複雑性が高い。
幕間の回想に叙述トリックが含まれているであろうことは想像がつくものの、ハルくんは別人だった、という一度それっぽい回答を提示して疑いの目を外してからもうひと捻りする叙述トリックには騙された。
安易に見えたネーミングにも実は理由があり、売野が売店担当ではなかったなんて仕掛けは、メタ目線があるからこそ引っかかってしまうポイントだろう。
さて、モヤモヤを残すとしたら十嶋庵。
彼、あるいは彼女の正体が明かされる日は来るのだろうか。
ミステリー作家の顔があるのは事実のようなので、敵でも味方でもない観測者となっていきそう。
今後も、事件の犯人とは別に"今作の十嶋庵は誰だ"という問題提起は継続するようで、次作以降でワトソン役が配置されたとしても信用しすぎてはいけないのか。
色々な楽しみ方ができるシリーズに育っていくのを期待したい。