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【ミステリーレビュー】密室殺人ゲーム・マニアックス/歌野晶午(2011)

密室殺人ゲーム・マニアックス/歌野晶午

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歌野晶午による「密室殺人ゲーム」の第三弾。

第一弾、第二弾を読んでいることがある程度前提になっており、その意味でも「マニアックス」だろうか。
もともと三部作を想定していたが、本作は2.5作目ぐらいの位置づけとのこと。
本作の発表から10年、まだ完結編は出ていないが、手を変え品を変え、この設定で仕掛けを張り続けてきた著者。
なんだかんだで、オチが楽しみである。

さて、ここまで来るとネタバレをせずに感想を書くのも難しくなってくるのだが、設定等は前作までのものを踏襲。
ひとつ、要素として加わってくるのが、"配信"の要素であろう。
出題者が考案したトリックで殺人事件を実行し、残りのメンバーが推理に興じる不道徳的なゲーム。
従来は、部外者に知られないように厳重に身バレを防いでいたのだが、本作では、登場人物のひとりであるハンドルネーム・aXeが、推理ゲームの様子を、動画投稿サイトにアップしてしまう。
指名手配犯となってもゲームを続ける彼らは、最終的に、殺人現場の生配信に至るのであった。

動画投稿による承認欲求が行き着く先。
10年前に書かれた本作の状況を、まさに現代社会はなぞっているといえ、なかなか興味深いのだが、一方、もともと想定していた第三弾の設定が、その未来と少し乖離していたのであれば、続編が出てこないのも納得せざるをえまい。

もっとも、肝心の殺人ゲームについては、マクガフィン的な要素を意図的に作っているため、やや消化不良。
球数も少ない。
全体に張り巡らされた仕掛けにいつ気付くか、というふわっとした作品になっており、やはり外伝的な作品なのかと。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


最初の事件ではアリバイトリックが、ふたつめ(みっつめ?)の事件ではトリックそのものの信憑性がぼやかされた形。
最後の事件は、そもそも未遂で終わり、解決編があったのかどうかも不明である。
使い古されたトリックでは物足りない、最新科学の技術がトリックでは納得がいかない。
ミステリーファンの気難しさへのアンチテーゼ的な作品にしたかったのだと思われるが、ロボットを使った密室に、光学迷彩を使った不可能犯罪。
やっぱり、ちょっとバカミスとして映ってしまうな。

個々の推理ゲームがいまいち腑に落ちない中、本作におけるゲームの真相が明かされても、やはりそこは引っかかる。
人生を犠牲にした承認欲求の果てのトリックとして、この事件を選んだのであれば、1作目、2作目の密室ゲームの主人公たちに比べて、だいぶセンスが劣っている。
やはり三番煎じ、と思わずにはいられないのだ。

ボリューム的にはコンパクト。
サクサク読めて、お得意の叙述トリックも炸裂するため、最低限の品質は保証されているのだが、単体で読むには設定がわかりにくい、第一弾、第二弾を読んでいた人には味気ない、というなかなか難しい立ち位置に収まってしまった感があるのかな。
やはりシリーズとしては好きな作品。
なんとか完結編にこぎつけて、消化不良を払拭してほしいものである。



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