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【フリゲ感想】藹々鬼譚

この記事の文字数は約6,700字です!

おはこんにちばんは! 富井サカナです。
今回は信じられないレベルのグラフィックの質と量を誇る作品のご紹介。
しかもプレイすれば分かる通りシナリオも素晴らしいんです。
ADV形式の超本格派作品をどうぞ。

1.どんなゲーム?

今回紹介したいのは、千景さんの「藹々鬼譚」です!!

【制作】千景 様
【制作ツール】ティラノスクリプト
【プレイ時間】2~3時間
【ジャンル】紙芝居型のビジュアルノベル
【KW】和風、人外、オカルト、ホラー、ドラマ
【筆者プレイ時期】2022年10月にプレイ
【筆者プレイ状況】フルコンプ(2周)
【特記事項】おまけ(美麗イラストの数々)つき制作支援版(500円)あり

【あらすじ】
もしも人里で、鬼の角を持つ赤子が生まれたら
唐櫃へ体を納め、千年樹の根元へ置いて奉げなければならない。

それは神意によってえらばれた、森と婚姻する子どもである。

【一言でいえばどんなゲーム?】
極上のイラストの数々を拝める上にシナリオも素晴らしいゲーム



2.こんな方に特におススメ!

・とにかく美しいビジュアルをたくさん堪能したい人
本作のタイトル画面を見てみてください。そして、ゲームのプレイページに飛んでサムネを見てください。もちろん意図をもって選んでいる数点ではありますが、この美麗なグラフィック群は特別に力を注いだイベントCGではないです。本作はプレイ時間は2~3時間でフリゲでは長編と呼べるレベルですが、ADVに良くある背景+立ち絵形式ではなくオール1枚絵で進行します。全部で約110枚のスチルがあります。全て恐ろしい美麗さのグラフィックです。本当に眼福が過ぎるグラフィックの数々が拝めます。


・「和風」「人外」「オカルト」で少しでもピンとくる人
本作のストーリーの舞台は基本的に鬼が暮らす神域となります。主人公は幼い日にその地に足を踏み入れることになった少女が主人公となります。角が生えた鬼たちの宿命や、登場人物たちがどのように生きるすのかが見どころです。また、本作は江戸時代のお話となっており、時代背景を反映させたグラフィック、テキストが楽しめます。


・商業レベルのゲームを遊びたい!という人
作者さんはプロの、というよりその中でも一流のイラストレーターさん。「商業レベル」という呼び方はむしろ失礼でしかない方です。私自身、絵の素養がゼロで絵師さんに詳しくなく、申し訳ないことに本作の出現前は作者さんのことは存じ上げていませんでした。が、今回以下のツイートを見つけて驚きました。

本は読むほうなので小野不由美さんと十二国記が如何に有名な作品か、また千景さんと名前が並んでいる方々が如何に凄いかは分かります。商業作品と比べてもやたら上手い(そしてやたらグラフィック点数が多い)、とプレイ中に感じていたので、疎い人間でも分かるくらいずば抜けてお上手ということで間違いなさそうです。さすがにそりゃそうだよね!という感じです。



3.ネタバレなしの感想

ここではネタバレなしの感想を記載します。
ノベコレでの私の感想+補足という形にします。

👇こちらはノベコレでの私の感想へのリンクです
ゲームのプレイ・DLページへのリンクを兼ねています

作品の持つ圧倒的な表現力と比べてしまうとやけに感想が陳腐だよなぁと感じて投稿前に1時間以上推敲に費やした記憶があります。センスや芸術度が高い作品に相対すると、感想を言語化する能力が全然足らんなぁと落ち込む傾向にあります。

サイトでの感想を投稿したのはプレイ後すぐだったのですが、今回noteに記事を上げるに際して2周目のプレイをしました。今思うとグラフィックに心を奪われ過ぎたのか、感想を改めて見直すと作品のストーリーに対しての理解度がかなり乏しかったように感じました。それも踏まえて改めてまずはネタバレなし感想です。

グラフィック
息吹が感じられるような自然の風景。登場人物たちの感情を余すところなく表現するような繊細な表情の変化。人里や鬼の里の建造物の精緻さ。脈動まで伝わってくるような生き物。とにかく全てのグラフィックが息をのむような美しさです。

○シナリオ・テキスト
シナリオは設定から構成から展開まで、非常に練られているということが2周目のプレイを通じてより感じられました。江戸時代当時の人々の思想・生活が大きく変わっていく中で、宿命を負って生まれてきた鬼たちの葛藤・想いが描かれる、とても壮大なストーリーです。
テキストはとても情緒と趣に溢れており、時代背景に合った文体であるといえます。ざっと読んでいくと分かりにくい部分もありますが、じっくり読むと一文一文が非常に味わい深いです。少し理解度が足りないかな?と感じたら2周目のプレイがおススメです。個人的には2周目を経てようやく本作の魅力を余すところなく味わえた、という感があります。以下、ネタバレにならない範囲でゲーム中の一分を例示として紹介します。

青年は穏やかな人柄だったが、滅多にものを言わぬ寡黙のきらいがあると、先んじて断ったので、道中は絵師の男の饒舌と蝉の一騎打ちとなった。

『藹々鬼譚』作中のテキスト

適当に1文を選んで引っ張ってきましたが、このように単純にAがBなのでCした、といった文章ではなく、趣とリズムがあるテキストが味わえます。


○BGM・効果音・ボイス
音源周りもとても素晴らしいと感じました。BGMは控えめにテキストとグラフィックに寄り添っている感じです。タイトルBGMの荘厳な音色は本作のイメージにピッタリです。プレイ中はBGMは控えめで、環境音だけが流れたり無音のシーンもあります。時に無音。基本環境音。そして風流な和風BGMといった形です。必要以上に主張せず全体としての調和・バランスが素晴らしいです。また、声優さんの演技も素晴らしく良いです。


さてさて、結局語彙の足りない感じですが、タイトルのイメージビジュアルと遜色ないレベルのイラストがこれでもかと味わえますので、未プレイの方はいますぐどうぞ!改めてプレイ・DLのページのリンクを貼っておきます。



4.ネタバレありの感想

というわけでここからは完全にネタバレを含みます。
今回はプレイ中の展開や2つのエンディングの結末にも言及しておりますので、未プレイの方は必ず先にゲームのプレイをどうぞ!先に下を読んでしまうと台無しです。


↓ネタバレ記事開始カウントダウン5

↓ネタバレ記事開始カウントダウン4

↓ネタバレ記事開始カウントダウン3

↓ネタバレ記事開始カウントダウン2

↓ネタバレ記事開始カウントダウン1

キャラクター
登場するキャラクターについての感想・感じたことです。キャラ紹介というだけでなく思い切り結末にも触れているので未プレイの方は先に、というか別に以下は見なくても良いのでプレイした方が良いです

○六
7歳で人から鬼の住処へと移り住む主人公。幼子の頃から非常に聡明であるが愛想なく寡黙であり、中盤・終盤までは胸の内を明かすことがあまりなかったが、そのせいもあって終盤11話での感情の発露には感銘を受けました。
9章冒頭に美しく育っていてため息が出ましたし、ED1の角が生え切った後のグラフィックも非常に美しかったです。というか本作のメインキャラ全員揃い揃って美形すぎる!!

○縁
人当たりが良く陽気で気の優しいまさにイケメンですが、冒頭の段階では善人か悪人か、六をどうするつもりなのかが全く読めませんでした。実際は縁自身も様々な葛藤で決めきれていなかったのだと思いました。本作の登場人物の中で誰よりも悩み、苦しんだのかなぁと。他の人たちが単に意思が強くて肝が据わり過ぎ、というだけな気もしますが。作中で「繊細であることは、人の器用さの一部」と言い切っていましたが、人ではない縁本人に最もそういう気質を感じました。
伊鞠の地の為に守り神になりたいと願いつつも、最後は六を逃がすことを選択します。鬼の役目は終わったと考える菫青の遺志ということにしていますが、愛する六を犠牲にしたくなかった、という気持ちも同じく強かったのだと感じます。六の選択肢後の感情溢れる表情は何とも言えないです。

○伽羅
初対面から朗らかで明るくて可愛らしさMAXでした。幼い六にとってどれだけ救いになる存在だったかと思う存在感です。道中語られる佐津での生い立ちのエピソードは強烈で、そこを乗り越えた強さがあるからこそあれだけ凛とした姿になったのだろうなと感じますし、六を誘って逃げ出そうという直前のシーンでは色気も凄まじいな、と息をのみました。
自らを犠牲にして多くの知識を授けてくれた菫青への愛情を強く感じたので、彼の子をこの世に残せたことは伽羅にとってそれだけで大きな幸福だったはずです。また、その子は本作後のお話でも傑物として活躍するはずなので、その姿を見守れるであろう伽羅は本作では最も報われた人物だと感じました。
神域を抜け出した後に如才なく生き続ける姿には力強さを感じます。自身もどこの馬の骨か分からない状態で、まだ姿も見せない六の衣食住・安寧まで確保してしまう能力は凄まじいですし、同じ境遇ではあるにせよ、また菫青遺志ということはあれども、人の世に戻っても六を大切に思い続けた情の強さには感銘を受けました。

○菫青
初対面では怖かったですが、後に正直で実直な男だというのが分かります。冒頭で六を逃がそうとするところではまだ彼の心の内があまり見えませんでしたが、彼の信念と優しさからくる行動だと分かると強い男だと分かりました。顔が引きつっているのが寿命が近付いているせいだというのは全くわかりませんでしたし。
2周目のプレイだと印象以上に早いタイミングで衰えて、姿を変えることになっていました。その後も彼の意志が他の3人にありありと残っているため、終盤までずっと存在感と印象が残っていたようです。孤独に朽ちることで伽羅を逃がしたこと、そしてそんな菫青の判断を受け入れて菫青が望むように生きた伽羅。菫青と伽羅の関係性は六と縁の関係性とは異なりますが、この対比も本作の魅力を高めている部分だと感じました。

あれ!?なぜか六と縁より伽羅と菫青の方が分量が多くなってる(笑)


エンディング
ここからは本作の2つのエンディングを見て感じたことです。分岐以降の結末にも言及しておりますので、改めて未プレイの方は立ち入り禁止とお伝えします。

伊鞠を憎みつつも伊鞠を大切に思う縁は憎めず、縁の感情をとても良く理解している六にとっては身の振り方には大きな葛藤があったはず。最初で最後の選択肢において、縁の感情のために縁と添い遂げるか、縁の判断は尊重した上で縁の傍に身を置くかの2択というところに強い意志を感じました。六のためにみんなが命を賭して身を粉にして整えた「江戸に行くルート」なんて六の中にはないんだなぁ、と思うと胸が熱くなりました。
また、エピローグではED1はやや客観視点、ED2はより主観視点ではあるものの、いずれも伽羅と菫青の子である遊馬が主人公となります。

・END1
こちらは縁が孤独に枯れ木になり、六は伊鞠に留まるルートです。

もう鬼が貸せる知恵はない、もう鬼を必要とする理由がない。もう鬼を大事にする義理がない。ーーもう鬼を知る人もない。

『藹々鬼譚』12話での縁の科白

という上記の独白は、避けがたい時代の移ろいを前にした縁の孤独と絶望が良く表れていると感じました。こちらのENDは六が自身と縁の感情よりも、縁の判断を尊重する判断を下す形です。

本作のここまでのお話はずっと神域の中での話でしたが、このルートでは当時の人里の話が解像度高く描かれます。これがまた非常に興味深い当時の世相を細かく描いており興味深かったです。
紆余曲折を経て成長した遊馬は伊鞠の地に趣き、そこで六と邂逅します。このシーンは視覚的にも情緒的にも本作で最も強い印象を受けたシーンの1つです。そして六は遊馬にこの地で起きた出来事を伝えます。
最後のシーン、あれは愛する縁の傍で長い時間を過ごした六の望みだったのだと思いました。六としては遊馬にこの話を伝えたことで自身の役割は終えたと感じたのでしょうから。武士道を備えた遊馬の武士の情け、という要素もきっとありそうです。

・END2
こちらは六が縁とともに伊鞠を守る神木になるルートです。

縁は伊鞠の人々が神や鬼を重んずる気持ちが多分に薄れていることに気付き、そんな人々を命を賭して守っていくことに葛藤がありますし、またこれに反対する菫青の遺志もあります。但し、人一倍繊細な縁にとっては、やはり六が伊鞠を憎む気持ちを認識していたとしてもともに傍にいてくれる方が感情的には救いがあるのは間違いありません。六にとってもEND1と比べれば大きな救いがあるはずです。

こちらは語り部としての六が存在せず、遊馬がその役割を担うことになります。「杉の巨樹の噂」というフレーズで、エピローグ開始早々に縁がEND1と異なり無事に伊鞠の守り神になったことが分かります。絵の中で洞となったはずの菫青の面影が現れるというのはどういうことなのかという興味が湧きました。神木が現れたことにより枯れ木となった菫青の身にも変化が生じたのでしょうか。

2周目のプレイをしても、やはり印象としてはEND1の方がラストシーンの方が強かったです。ただ、END2の方がやや幸福度が高い印象なので好きなのはこちらのENDかもしれません。
END1だと遊馬が六から伝え聞いた自身の出生にも関する物語を口頭伝承として伝えていった形、END2だと遊馬が絵師に絵本を作らせてタイトル画面および本作そのものの回収に繋がる形、とどちらも破綻なくストーリーとして綺麗に幕引きがなされ、どちらも遜色なくTRUE ENDとみられるこの構成も素晴らしいと感じました。


■ちょっと気になった点
何か感じた時はきちんと書いておこう、というスタンスです!
そもそも個人的には全体的にメチャクチャいいな!と思うほど、
気になる点が気になったりするんですよね。(自分だけ?)

〇途中から再開するモードが欲しかった
グラフィックが非常に素晴らしい本作ですが、文章の巧みさもあるのでただ好きなグラフィックを表示できるモードの搭載はもったいない感がある気がして個人的にはやや反対です。また、全グラフィックが1枚絵なのでシーン回想はそもそも作りようがないです。

でもやはりある程度の流れの中でグラフィックを拝むモードは欲しかったです。綺麗に1話~12話+エピローグという構成になっているので、この途中途中から始められるモードがあればより嬉しい、と感じた次第です。
もしくはセーブ枠が4つしかないのでこれを12個くらいまで広げてもらえれば、自力で各話の先頭から遊べるように整えられるのに!と思いました。


ネタバレ防止緩衝地帯

ネタバレ防止緩衝地帯

ネタバレ防止緩衝地帯

ネタバレ防止緩衝地帯

ネタバレ防止緩衝地帯

ネタバレ防止緩衝地帯



5.おわりに

というわけで「藹々鬼譚」の感想はこれでおしまいです。

タイトル画面のグラフィックを見た時にスゲェ!と思った感動をスチルの数だけ(100回以上)味わえる素晴らしい一作でした。シナリオやBGMや声優さんの演技もグラフィックと比べても全く遜色ないものでした。未プレイの方は遊ばないのはもったいない作品です!本当に!

私はノベル・ADVへのジャンル愛が強いので、これだけの画力のある方がこれだけ多大な労力を掛けて本作を作り上げたことにただただ感動です。文章も非常にお得意だという特異性もあったかと思いますが、これだけ尋常でない労力を掛けて1作のビジュアルノベルを制作し、完成までこぎつけるというのはジャンルが衰退している中で奇跡を見るような思いです。
ちなみに制作期間1年弱にはビビり倒しました。速度もプロだ。。。)

このジャンルの魅力がより多くの方に広がるきっかけになることが間違いない、という意味でも本作は素晴らしい一作だと感じています。順調にDL数が伸びているようで、いちファンとして非常に嬉しく思います!今後はイラストレーターとしての千景さんも追いかけていく所存です!せっかくなので少しでもビジュアルノベルを作って良かった!と思って欲しいですし!


以上、富井サカナでした。


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