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日課

こちらのら文章は、今までよりもくっきりと、その時に近い感覚で表現しております。
苦手だと感じる方がいらっしゃるのは当然のことです。
無理せず、戻ってくださいね。
他にも綺麗な色を載せておりますので、そちらを観て頂ければ幸いです。


私と。前に一人、横に一人、斜めに一人。
朝4時、目が覚めてカーテン越しに人数確認をする。
音をたてぬよう、のっそりとお布団を抜け出して、タオルとコップ、歯ブラシを持つ。
よし、向こうへ行って顔を洗い、歯を磨いてこよう。

すでに何名かの先客が居て、朝日を待つように窓際でお喋りをするヒトたちもいた。
そのあとも何名かやってくる。
ここでの朝は早いのだ。
みなそれぞれが出来ること、したいことをやって、時間をやり過ごす。

いつもの光景だった。

ただ、いつもと違う日になるのは、そう難しいことではない。
あのヒトの声が聞こえてきたら、がらりと変わってしまうから。

ある瞬間、予告なしに彼はのんびりとやってくる。
あまりにのんびりなもんで、私はキョロキョロする。
私がそわそわしている間に、気づけばもう目の前だ。

彼は私を責めることもあるし、何かしらの食べ物を指定して食べろと命じることもある。

そのとき私の脳は、頭の上にある。
私はかれに従うしかほかないのだ。

責められているときは、もちろん沢山謝るし、頭だって下げる。
時々勇気を出して、私じゃないです、と反論してみるけれど、そんなの彼は聞いちゃいない。
ひたすら彼が飽きるまで謝るしかないのだ。

食べろと言われれば、その食べ物を一心になって探す。
身の回りにないと気づけば、持っていないかと尋ねる。

パンはありませんか?
今食べないといけません。
食べないと、私は怒られます。
食べなくても怒られない?

沢山尋ねて、何度も断られて、時間だけが過ぎていく。

歩き回る力も、尋ねる勇気も無くなってきて、視界も滲みまぶたが重くなってきた。
もうダメかもしれない。
そう思って壁にそっと寄りかかった。
こんなときでも壁だけは、また味方になってくれている気がして、何だか少しずつ安心した。


どれだけ経っただろうか。
じっと壁と立っていると、ふわりと眠気が襲ってきた。
もう帰ろう。
覚悟を決めて壁から離れてみた。
なんとか歩けそうだ。

数歩歩いたところで、彼の声が聞こえていないことに気付いた。
体中が重いような、でも浮いているような妙な感覚である。

日常に戻ってきたのだろうか。
いや、あの時間も私にとっては日常の一部だ。
なんとか日課をやり過ごした、ということにしておこうか。


私と。前に一人、横に一人、斜めに一人。
朝6時、目が覚めると皆そこに居る。
前のヒトはカーテンを開けて朝日を眺める。
横のヒトは犬に追われているようだ。
斜めのヒトは同じフレーズを何度も歌っている。

いつもの光景だ。

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