榊わい(お人形P)
腫れた空気の 真ん中を 埋めたこころが 今は居ぬ 折れた鎖の つなぎ目が いつの間に肌 掻きむしる わたしは今や 気付けない 見過ごす息の 温もりが わたしは既に 褪めたのだ 果実を紡げぬ 焦燥だ
命名、わたしに 一言を どうか、どうか、紋章を 命名、わたしを 縛ってよ こんな、こんな、言の葉で 形をください このこころ 溜まったわたしの 澱を指す 名前をください 等身大 この苦しさも 露さへも この感情に ものさしを 嗚呼、落つる言の葉よ! この感傷に 縮尺を 嗚呼、流れる無造作よ!
誰かは言った 暁を 誰かが泣いた 夕暮れを 誰かの捨てた 有明に 今、私は 笑っている このほほ笑みは ぬくもりは せんねん前も いたのだろう このほほ笑みよ ぬくもりよ せんねん先も 栄あれ
ねむってしまった ねむってしまった わたしはとうとう 地に墜ちる ねむってしまった ねむってしまった あの心さへ 遠い遠い つらいねそうだ つらいねそうだ わすれろわすれろ わすれろわすれろ つらいねそうだ つらいねそうだ どうだ一錠 どうだ一錠 否、 わすれるものか わすれるものか カネの裏側 その視界 わすれるものか わすれるものか 耳を塞いだ あの時を わすれるものか わすれるものか みえないみえない みないみない わすれるものか わすれるものか わすれるものか
指折り数えて いちにのさん 数えるあなたの 眼の奥の 眠れる佛の 愛しさよ すぎるわたしを 捕まえて からだを抱えて いっせーの 込める力の てのひらに 湛える若木の 源よ 消えるわたしの 過ぎりどころ
どうしてどうして 前を見て こころをえぐる 穴に落つ 手をこまねいた 自堕落に 考えきれない 擦過傷 どうしてどうして 蔑んで わたしはわたしに 泥を塗る 期限の切れた 似非涙 廻る輪廻に この反芻 わたしの肌に 孔穿つ これはかすかな 代償だ わたしの胸に 穴あける これはその場の 方便だ
たった一瞬 見えないな はるか未来の 創傷が たった一寸 刃の先が からだを揺する 音がする 只今だけは 今だけは 知らないつもりで いたいのだ 只今だけは 今だけは 痛まぬつもりで いたいのだ
流れ流れを 目のあたり 指のあいだを すり抜ける 一寸先を 掴み損ね 時間がわたしを 連れてゆく
淀むわたしを もてあまし からだを溶かす 今日未明 眠るはなしに そっぽ向き この目射たのは 春一輪 嗚呼、凛よ この凛よ 伸ばす背筋の 力見せ 嗚呼、身体よ 儚さよ 開く花弁の 力見せ
誰かが言った 春眠を 感じるわたし 鼻の先 誰かが感じた 陽の光 感じるわたし 花を待つ 舐る束の間 影の裏 朽ちる臭いと 消える煙 儚い夢の 蝶の翅 感じるわたし 夢の中
虫けら一匹 虫の息 かく言うわたし 虫の息 わたしはそれを 知っている わたしはそれを 知っている 指の狭間の 虫の息 あなたは見限る つよい意志 あなたはそれを 知っている あなたはそれを 知っている 漏れる吐息の その影の 眠る涙よ 愛しさよ
荒んだ世界に 根を下ろす 穿った見方に 音をあげる さがない矛盾の 端くれに 渦巻くわたしが 目を覆う こころを抉る 焦燥が わたしの耳に 寄生する 薬を飲んで 忘れろと わたしの耳に 問いかける どうにかしてよ かみさまさん どうにかしてよ このわたし
荒んだ脳の 皮の上 毬のこころの 針の上 そんな言葉は 必要ない そんな言葉は 必要ない 穿った顔の 仇の上 孕んだ奥の 錆の上 そんな言葉は 必要ない そんな言葉は 必要ない
わたしのからだを 染め上げて わたしのこころに 毒をはく それはわたしの 深淵だ それはわたしの 奥底だ わたしのからだを 貫いて わたしのこころを あぶり出す それはわたしの 畢生だ それはわたしの 傲慢だ 廃る 廃る 廃る 眠る 眠る 眠る 眼 眼 眼 荒 荒 荒 荒 荒 荒 荒 荒 さがない口に 身を窶す それはわたしの こころから 実がない眼に 眼を覆う それはわたしの ことばから
感覚をうつ 人混みに 空のうつつの ドーパミン 眼に入る空虚 脳を打つ 有象無象の バベルの塔 ものいう指の 眼差しで こころを操る オベリスク 胸の痛みに 塩を塗り 痛みを突いた バベルの塔
形をとった てすさびの 皺の裏面の 魂よ ふたつてのひら はきだした 手垢の奥の 人間よ 触れたそばから 腐り落つ 鮮度の短い 永遠よ 焼き付く胸の 奥底の この哀しみよ かなしみよ
