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「カメラを止めるな!」の世界に入り込む、何度でも。

もう何度、この映画の世界に入り込んだだろうか。
何度観ても楽しめる。
エンターテインメントを体現したような映画である。

そんな本作の魅力を少しでも知ってもらいたいと心から思うので、この映画について少し語ってみます。
未視聴の方に興味を持って頂けるような記事にしたいためネタバレはなるべく少量にとどめましたが、それでも人によってはネタバレと感じる箇所があるのでご容赦ください。

この映画の醍醐味は、ネタバレを見ずにニュートラルな心で観ることだと思うので、まだ見ていない人は騙されたと思って先に映画を鑑賞してみてくださいね。


どんな映画?

公式サイトによりますと…

とある自主映画の撮影隊が山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影していた。​本物を求める監督は中々OKを出さずテイクは42テイクに達する。そんな中、撮影隊に 本物のゾンビが襲いかかる!​大喜びで撮影を続ける監督、次々とゾンビ化していく撮影隊の面々。
”37分ワンシーン・ワンカットで描くノンストップ・ゾンビサバイバル!”……を撮ったヤツらの話。

うーん、観た人ならわかるけど観てない人に説明するならこれがネタバレ限界かも…というギリギリの説明です。
上手い。
ここではなんといっても37分ワンシーン・ワンカット」に注目したいですよね。
なんと37分間、一度もカメラを止めることなく、カット割りをすることもなくひたすらワンシーンとして流れます。
映画を撮ったことはないですが動画編集くらいはしたことある素人の私でもすごいと感じるワンカット。

この冒頭37分がこの物語、この世界の全ての伏線と言っても過言ではないです。
ここをいかにニュートラルな気持ちで見られるか。
この映画の面白さはまずここにかかっています。
いやホント、まだ観てないならここで引き返した方がいいですよ。
観てないのにこの後の解説を読むなんて野暮っすよ、ヤボ。

心躍るメタ構成

本作品の魅力のひとつに、ストーリーを彩るために計算しつくされた構成が挙げられます。

本作品は、「冒頭37分の自主映画作品」を便宜上パート1と呼ぶとすると、このパート1を撮るに至った背景や撮影の苦労といった裏話的なパート2を挟み、全ての伏線を回収しにかかる怒涛のパート3という三部構成になっています。

パート1初見では、自主映画だということを差し引いたとしてもビミョーな空気感が漂い続けます。
さらに映画と呼ぶにはあまりに謎な演出や雑な演技。
これはワンシーン・ワンカット撮影だから仕方ないのか?
それにしても全体的に雑すぎないか・・・?
なぜこんな冗長な間ばかりあるのか・・・?
音声係のスキンヘッドはなぜあんなところに・・・?
カメラ目線で指示する監督・・・?
その前にカメラワーク下手すぎないか・・・?
37分間、視聴者の頭の中には違和感が残り続けます。

このパート1で視聴者がどれだけ違和感を覚えることができるか・・・実はそれがこの映画の面白さを作り出すのです。
最初に違和感を覚えまくった人ほど楽しめる映画。
なぜならこの映画は、パート2で登場人物たちの個性に触れてひとしきり感情移入したあと、パート3でその違和感の正体をひとつひとつ露わにしていくという構成になっているからです。

なので、とにかくパート1をニュートラルな、悟りを開くかのような心で見守ってください。
つまらないからと言って早送りしたり観るのをやめたりしないでください。
このパート1のつまらなさというか、あなたの心が感じたその違和感を大事にしてください。
最後に、良い意味で裏切ってくれます。

この世界を彩る、魅力的な登場人物たち

そして絶対に外せない魅力として、登場人物の豊富さが挙げられます。
頼りない監督に元女優の妻。そして映画や舞台の夢を追い続ける娘。
調子に乗ったアイドル、世界観持ちすぎのイケメン、不倫カップル、アル中、神経質、気弱・・・というどうしようもない布陣の俳優たち。
さながら、役に立たないオールスターズといった様相です。

これら俳優陣に対し、逆に普通すぎて視聴者の代弁者となっている制作陣。
ノリと調子だけはいいが何も役に立たないディレクター陣。
特に「アツアツやろ?」のおばちゃんは強烈すぎて一度見たら忘れられないだろう。

パート1というホラーの要素は実は単なる題材で、パート2のヒューマンドラマを経たうえでパート3は・・・コメディ?
この一見バラバラで不思議な構成を違和感なく紡いでくれるのが、魅力を多分に備えすぎた登場人物たちなのです。
観終わったら確実に、登場人物のうちの誰かのファンになっていることでしょう。

夢を追う姿勢と現実との狭間、そして親子の絆

中でも主人公である映画監督とその娘には自分を重ね合わさずにはいられません。
監督という夢を一応叶え、うだつが上がらないなりに日々奮闘しながらなんとかやっている父。
しかし夢を追い続けたい気持ちとお金を稼がなくてはいけないという仕事の苦しさ・現実というものに板挟みになって昔のようなダイナミックさを失いつつある現在。

そして、同じく映画業界でビッグになってやろうと奮闘する娘。
だけどまだ若くて世間知らずで、それでいてあまりにも頑固な性格が災いして、周囲とぶつかり続けてくすぶる日々。

ふたりとも夢を追うというステキな想いが原点なんですが、思いが強すぎるが故に上手くいかない娘と、思いを忘れかけてしまっていた父。
この映画の後半ではそれぞれがそれぞれの良いところ、つまり娘は絶対にあきらめない頑固さを発揮して、父はビジネスではない純粋な作品作りの魂を思い出して、次々と畳みかけてくる試練を乗り越えていくのです。
そうしてふたりは思い出すのです、親子で紡いだ思い出と、夢を追い始めた原点を。

私も最後には涙がホロリと出てしまいました。

エンドロールのメイキング映像がたまらない

映画本編とは違うのですが、本編に深みを与えてくれるのがメイキング映像です。

映画のメイキング映像ってたまりませんよね。
映画が作りものなんだと再確認するとともに、こんなに人が関わってるのか・・・とか、そこってそんな風に演出してたのね!・・・とか、作り手側の世界を垣間見れるのが面白い。
はたまた俳優さんたちの仲のよさそうなシーンとか見るとなんだかこちらまで嬉しくなってきちゃいます。

圧倒的な完成品を見るのもステキだと思いますが、制作過程を見るというのは時にそれを超える興奮をもたらしてくれます。
本当は見せちゃいけない世界、マジックで言うなら種明かし。
それを見ることで制作側に回ったような、錯覚だけれど甘美で心地よい気分に浸れるのです。

この映画のエンドロールは、強いて言うならパート4と呼んでもいいかもしれない。
この映画の本当のメタ世界を見ることができちゃいます。

何度観ても楽しめる最高のエンターテインメント作品です

ということで、私が思うこの映画の魅力を駆け足で紹介してきました。

超大作とは違う、現実離れした設定の割にその辺で起こり得そうな、現実的で身近なドラマ。
それを濃い登場人物と、ジェットコースターのように種明かししていくスリルで彩る、最高のエンターテインメント作品です。

このコラムを読んで、少しでも見てみようかなと思っていただけたらなら幸いです。
いや、騙されたと思って一度見てください。
最後にはニヤニヤ笑えて何故か活力が湧く、そんな素敵な映画です。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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