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【絵から小説】つないで


こちらの作品は、清世@会いに行く画家様の企画「絵から小説」に参加しています。


もう10年以上も前の話なんだけどね。
私昔から色々あって、高校生の頃にはもう人とか人生に興味っていうか、愛着っていうのか、そういうのがまったくなくなってたの。生きるのが嫌で仕方なかったけど、死ぬのも嫌。そんなだから何してても中途半端で味気なくてね。
ほら、手首のこの薄い傷跡。いっぱいあるでしょ?これはあの頃に自分でやったものなの。ほんと、自分でもどうしたいのかどうなりたいのかなんにもわかんなくて、ただ流れに身を任せて生きてた。
でもね、この写真の彼女と、これを撮ってくれた子が、そんな私に人間らしさを取り戻させてくれたの。
そう、こっちが私で、ロングの子がしおりって言ってね、私の恋人だった人。それでこの写真を撮ってくれたれいなって子は、しおりの幼馴染で、私たちの親友だった人。
高1の冬に、私はこの子達に出会ったの。
こんな言い方べたかもしれないけど、二人と出会うまでの私には、世界は無色で無味無臭、とっても無機質なものだった。そんな私の世界に、彼女たちは色を、味を、香りを与えてくれた。
当時のクラスメイトも担任の顔も全然思い出せれないけど、あの二人のことだけははっきりと思い出すことができる。しおりの制服から香る柔軟剤の香りとか、れいながいつも首からぶら下げてた古くさいフィルムカメラの光沢とか。そんな些細なことまで全部。
この写真、修学旅行に行った時の写真なの。修学旅行って知ってる?そう、そんな感じの学校の行事。沖縄に行ったことは覚えてるんだけど、一緒に行った班のメンバーも、その子たちとどこを見て回ったのかもほとんど覚えてない。2人とは別のクラスだったからね。でも修学旅行中に2人と過ごした時間だけは覚えてるの。この写真は、空港の待合室で撮られたの。そう、れいながいつの間にか撮ってたの。空港で飛行機待ってる時に、2人と一緒に回れないのが寂しくて、それで私しおりたちのところに行ったの。結構本気で泣きそうで、最初はしおりもれいなも冗談だと思ってからかってきたかど、私がいよいよ本気で泣きそうになって、それでしおりが私を慰めてくれたの。私たちの間にはね、どんな時でもお互いが笑顔になれる特別な話題があったの。私の寝言の話なんだけどね。私は当事者だったから知らないんだけど、私って見てる夢が変なのか、変な寝言ばっかり言ってたみたいでね、しおりもれいなもそれがツボで、私の寝言メモまで残すようになってて。それ見たら、私ほんとにおかしなことばっか言ってて、それで私も自分で面白くなっちゃって。だから私たちの間で、誰かが落ち込んでる時に必ず出す話題になっちゃったの。あの時もね、しおりが突然
「やば、紐がスパゲッティに見えるとこまできてしまった」
なんて言ったの。何が面白いのかわかんないよね。でも私たちの間ではこれだけで十分。私はその一言ですごく笑って、そのせいで涙まで出ちゃって。いつのタイミングで撮ったのかはわかんないけど、これはその時の写真。
他にもね、深夜にホテルから抜け出して遊びに行った人工ビーチの風景。街路灯に照らされて輝く水面とか、はしゃぎ回ってたれいなの汗の香りとか、ストロボの光に反射したしおりの瞳とか。ずっとずっと頭に残ってるの。
この写真、隠し撮りだったって言ったでしょ。修学旅行の少し後にれいながこの写真持ってきてね、その時の怒ったふりして照れてたしおりの笑顔も、私たちを茶化して騒いでたれいなのいたずらっぽい微笑みも、昨日のことみたいに鮮明に思い出すことができるの。それだけ私にとって、2人は大切な人だった。
それなのに私は、あの2人を・・・。
私はね、これからどう生きだって償いきれないくらいの罪をあの2人に対して犯したの。そんな罪の重さは私にはあまりにも重くて、押しつぶされそうで。でもだからこそ、私はこの重さを背負い続けて生きていかなきゃいけないの。許されたいなんて思わない。私はこの重みと一緒に、私が歩むことのできる最善の、贖罪の人生を歩もうって誓ってるの・・・。
ごめんね、いきなりこんな話して。意味わかんないよね。ごめんね。

みくさんからこの写真の話を聞いた時、私は驚いた。多くを語らないみくさんから過去の話を聞いた驚きもあったけど、でも結局大切なところはぼかされてて、そんなことよりも私が驚いたのは、この写真が撮られた日付だった。それは13年前の6月9日。私が生まれた年でもあり、彼らが地球侵攻を開始した816事件が起きた年でもある。フィルムカメラっていうのは現像って作業に時間がかかるって聞いたことあるから、みくさんたちはこの写真を見てすぐに、彼らの最初の遊星爆撃を目撃したのだろう。噂には聞いてたけど、本当に制服を着て、学校に行って友達と笑い合うみたいなおだやかな生活が、この世界に存在してたなんて。この世界は、13年間で本当に変わってしまったんだ。
みくさんたちは、突如として地獄にかわった世界で、どう生きようとしたんだろう。あの2人は、多分みくさんの言い方じゃ・・・。それに、みくさんが言ってた罪って・・・。
みくさんは、結局それ以上のことは何も語らなかった。そうしてあの話をしてくれた二日後に亡くなった。彼らの銃撃から私をかばって。
私の上に覆い被さったまま息を引き取ったみくさんの、その重みを感じた時、私は写真の話を思い出していた。みくさんは、なんで私にあんな話をしたんだろう。あの2人に対してどんな罪を犯したのだろう。どうして、私なんかをかばったんだろう。考えているうちに、私はみくさんの贖罪に巻き込まれたように感じて、どんどん重たくなっていくみくさんの死体に恐怖すら感じていた。私は、みくさんの重荷を引き受けてしまったような気になった。みくさんの重荷を引き受けると言うことは、しおりさんとれいなさんの命まで引き受けるということのような気がして、私はその場で発狂しそうになった。そんな重たいものを、私に背負わせないで欲しい。13歳だった私に、みくさんの話や、彼女の死は重すぎた。
でも、今ようやく私は、みくさんの重荷を背負う覚悟ができた。きっとみくさんも同じだったんだ。しおりさんやれいなさんは、みくさんの命をつないだ。そうしてみくさんは、私の命をつないでくれた。人生には逃げずに立ち向かわなきゃいけない問題に直面する時が必ずくる。しおりさんやれいなさんやみくさんが立ち向かった結果、私の命が今この場所に繋がれたんだ。だから今度は、私の番。
もう弾もつきかけてる。いつのまにか左の小指も吹き飛ばされてるし、さっきからお腹が妙に熱い。こんな状態で、ゆうきにリック、エマにこうじさんまで助けるのは不可能かもしれない。でも私しかやれる人はいない。みくさんたちが繋いでくれたこの命の使い所は、ここしかない。
ポケットから写真を取り出す。しわくちゃで、びりびり。随分前に左目をなくしたせいで右目でしか見ることもできない。それでも、この写真から、彼女たちの生きた証がじわじわと伝わってきた。彼女たちは、この地獄に逃げずに立ち向かった。今度は、私の番だ。


今度は規定の文字数内ぎりぎりで収めれました(^_^;)
清世さん、素敵な企画に参加させていただきありがとうございました!

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