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なでと君むなしき空に消えにけん

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小さな教会のある山間の町、渡呉。 そこに住む女子高生の杏子は、父親を亡くしながらも、母と二人、強く生きていた。 そんな中、渡呉の町に『知死期の導』と名乗る一人の男と小さな神様がや…
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#百合

なでと君むなしき空に消えにけん 2-1 杏子

なでと君むなしき空に消えにけん 2-1 杏子

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「こんにちは、神父さん」
私が声をかけると、神父さんは庭いじりの手を止めふりかえり、朗らかな笑みを浮かべた。
もちろん、子供の私に悟られまいと気を遣ってくれているのだろうけど、それでも、普段と変わらない笑顔を浮かべてくれたことに、私は内心安堵のため息をこぼした。
「こんにちは杏子(あんず)さん、学校お疲れ様です」
言いながら、神父さんはむくっと立ち上がる。そうすると、私はたちまち彼の影に覆わ

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なでと君むなしき空に消えにけん 2-2 杏子

なでと君むなしき空に消えにけん 2-2 杏子

あと少し。あと少し。あと少し。
額にじっとりと汗が滲むのを感じながら、杏子は心の中で呟き続ける。
放課後の学校。テスト期間中の校内は、ひっそりと静まり返っていた。そんな校舎の影にすっぽりと覆われた教員用の駐車場。まばらにとまった車の脇を、そろりそろりと、杏子が進む。
息を止めているのももう限界だった。
とにかくこれを片付けてしまわなければ。
神経をとがらせ、一歩、また一歩と踏み締めるようにして歩み

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