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企業の社会貢献事業の悩みを共有〜SAJ「ワクワクする学びの場創造研究会」2023年度第2回レポート

一般社団法人ソフトウェア協会(SAJ)の「ワクワクする学びの場創造研究会」による2023年度第2回会合が2023年9月14日(水)、オンラインで実施されました。本研究会の活動目的は、「ワクワクする学びの場」について開かれた対話の場を創出することです。3ヶ月に1度研究会を開き、メンバーとSAJ会員からの参加者が情報交換を行っています。
[前回開催レポート→2023年度 第1回レポート

企業の社会貢献事業について本音でトーク

今回は参加者の自己紹介のあと、「企業の社会貢事業の活動目的と予算」をテーマに事例発表と意見交換が行われました。多くの企業が直面しつつも普段なかなか話す機会のないお金に関する話など、本音を交えて悩みが共有されました。

<2023年度第2回研究会参加者(敬称略)>
研究会メンバー:中村⿓太(研究会主査/サイボウズ株式会社)、丸尾周平(トレンドマイクロ株式会社)、朝倉恵(さくらインターネット株式会社)
参加者:次の所属のみなさん。株式会社MOVED、キンドリルジャパン株式会社、株式会社ラネクシー、ニューマネジメントシステム株式会社、株式会社バリューアップジャパン、株式会社Globable、個⼈事業主、サイボウズ株式会社、株式会社Nex-E

2023年度第2回参加者のみなさん

社内での共感を大切に〜サイボウズ

はじめにサイボウズ株式会社前田小百合氏が、同社のソーシャルデザインラボで行っている活動について発表しました。前田氏が所属するソーシャルデザインラボは、社会課題を解決するための社会実験を行い、政府や行政機関の政策決定にエビデンスを提供することをミッションとしている部署です。例えば、災害時のボランティア管理のDXを同社の製品グループウェア製品kintoneで実現した事例などがあります。

前田氏が現在取り組んでいるのが、不登校の子どもたちがワクワクする居場所づくりです。横浜市立鴨居中学校には「和みルーム」という別室登校をしている生徒が通うスペースがあり、前田氏はおおよそ月に1回、オンライン・オフラインで「和みルーム」の子どもたちと交流をしています。
今年度、和みルームは、そこで過ごす子どもたちの横のつながりを生み出そうと、先生と子どもたちの共同プロジェクトを発足し、校内の一角で畑作りを始めました。
前田氏はkintoneで発育日記を子どもたちと一緒に作る支援をしたり、当研究会主査の中村龍太氏は畑作りのアドバイスを畑作りをするなど、先生や子どもたちの支援をしています。畑づくりを知って登校するようになった生徒がいるなど、変化が生まれ始めています。

前田氏は企業の中でこうした活動を行うにあたり、社内で共感を得ることを大切にしています。「個人の思いから始まっていても、会社のビジョンや目的と重なる点を見つけて、サイボウズの活動として“いいね”と言ってもらえるようなコミュニケーションをとっていくことが大事だと思っています」。また、小さなことからでもまず形にしてみることを意識しているということです。

前田氏の発表スライドより

会社の目的との関連性が重要〜さくらインターネット

続いてさくらインターネット株式会社の朝倉恵氏が、同社の社会貢献事業である次世代育成活動について発表しました。同社では、「高専支援プロジェクト」など複数の活動を行っていますが、朝倉氏はそのひとつ、「さくらの学校支援プロジェクト」に関わってきました。

同プロジェクトは小学校のプログラミング教育支援のために2017年に始まりましたが、小学校におけるプログラミング教育必修化を見届けた2020年に終了。その後プロジェクトの活動実績が「令和3年度科学技術分野の文部科学大臣表彰」を受け、2022年からは同社の研究所の研究活動として、ふたたび教育に関する課題整理が行われています。

朝倉氏はプロジェクトの経緯を振り返り、会社のミッションやビジョンと社会貢献事業の目的につながりがあることが重要だと指摘しました。会社への貢献度が明確でない社会貢献事業に、会社はコストをかけ続けることはできず、継続させるのが難しい現状があるのです。

同プロジェクトもはじめは「会社の目的となかなかすり合わせることができないまま走っていました」と朝倉氏は振り返ります。プロジェクトは終了となりましたが、現在は新たに研究活動という位置付けで教育課題に取り組めるため、会社のビジョンとのつながりもでき、研究内容を会社にフィードバックするという貢献の形が見えるようになったということです。

朝倉氏の発表スライドより

社会貢献事業、教育事業が直面するお金の問題

ふたりの発表を受け、参加者の間で意見交換が行われました。社会貢献事業に共通する悩みのひとつは、売り上げにつながる活動ではないということです。そのため、社内にフィードバックを行っても関心が薄く手応えが少ないという声も。この悩みに対しては、社内向けの広報や味方を増やすためのアイデアが交換されました。

一方、同研究会には、社会貢献ではなくメインの事業として教育事業、学校支援事業を行っている会社も数多く参加しています。教育事業の悩みも社会貢献と通じるところがあり、学校から得られる対価が少ないという現実が共有されました。

ある参加者は、学校のキャリア教育や探究学習の支援で得られる対価は、企業研修の対価の10分の1程度だと明かします。「はじめはこちらも経験になり、関係性を築けるという良さもありましたが、続けていくのは難しいですね。この金額でどうメリットを見出していけばいいのかというのが悩みです」と本音が出ます。

そんな中、前向きな事例を示したのがMOVEDの渋谷雄大氏です。同社が支援をしている学校の中には、教育系の助成金を申請して獲得し、その予算を使って依頼をしてくれるケースが出てきているということです。また、自治体の場合は予算を上げてもらうことが重要で、一般的に「1年目はテストとして関わり、2年目で実績を作って、3年目に議会に予算を通してもらう」といったステップが必要だと話します。

学校には直接お金を出せる余裕がないのが実情で、助成金を利用するのは学校にとって有効な手段ですが、そもそも助成金の存在すら知られていないケースが多いと渋谷氏は指摘します。SAJのような企業同士がつながる場で、助成金の情報や申請方法などを集合知として共有できたらいいのではないかと提案し、共感が広がりました。

「ワクワク」を生み出すために

話は学びの捉え方にも広がり、「ワクワクする学び」を生み出そうとするときに、広く大きく展開させようとする企業のやり方には馴染まないのではないか、という問題提起も。参加者それぞれのスタンスが語られ、中には、会社の方向性や営利とは馴染まないのでNPOを立ち上げる計画をしているという話も出ました。

中村氏はさまざまな思いを受けて、「究極のワクワクは一人一人違うもので、それにどこまで寄り添えるかということだと思います。学校に関心のある皆さんで学校を作ってもいいのではないでしょうか」と大きな提言をしました。実際に中村氏が個人で運営に関わっているフリースクールの例をあげ、経営者視点で見て学校を作るのは現実的な話だということを伝えました。

参加者からは、同研究会やSAJで学校までいかなくとも何か単発のイベントなどの形にしてみるのも面白いのではないかという話も上がり、大人がワクワクする新しい動きにつながる可能性も出てきました。

次回2023年度第3回研究会は12月に開催

第2回は、多くの担当者が直面しつつも普段なかなか話せない本音や実情が共有される貴重な時間となりました。次回、2023年度第3回の「ワクワクする学びの場創造研究会」は、2023年12月13日(水)に開催します。SAJ会員の皆さんで関心をお持ちの方はぜひご参加ください。

[前回までの研究会レポートも合わせてご参照ください]
→2022年度:第1回第2回第3回第4回、2023年度:第1回


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