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プログラミング教育の効果と学校の業務効率化を深掘り〜SAJ「ワクワクする学びの場創造研究会」第3回レポート

一般社団法人ソフトウェア協会(SAJ)の「ワクワクする学びの場創造研究会」第3回会合が、2022年12月7日(水)にオンラインで実施されました。研究会は3ヶ月に1度開かれ、メンバーとSAJ会員から自由に参加者が集います。

情報交換から自然と対話が生まれる

本研究会の活動目的は、「ワクワクする学びの場」について開かれた対話の場を創出することです。この研究会は第1回のレポートで詳しくご紹介した通り、あえてゴールを定めずにエフェクチュエーションの考え方で情報交換を行います。

今回は特に、静岡大学情報学部講師の遠山紗矢香先生より、「90年代にプログラミング教育を受けた子ども達のその後」について、またサイボウズ株式会社前田小百合氏より「三島市教育委員会での学校におけるDX事例」についての報告がありました。どちらも第2回の研究会で参加者の関心が集まったテーマです。

<第3回研究会参加者(敬称略)>
中村⿓太(研究会主査/サイボウズ株式会社)、丸尾周平(研究会メンバー/トレンドマイクロ株式会社)、朝倉恵(研究会メンバー/さくらインターネット株式会社)、前田小百合(サイボウズ株式会社)、稲田正輝(トレンドマイクロ株式会社)、遠山紗矢香(静岡大学情報学部講師)、熊田洋子(株式会社Nex-E)、大庭成晴(株式会社Nex-E)

第3回参加者のみなさん。上段左から前田氏、中村氏、遠山先生、稲田氏。中段左から丸尾氏、熊田氏、事務局若生氏、大庭氏、下段左から事務局横井氏、朝倉氏

プログラミング教育の先駆け

2020年より小学校でのプログラミング教育が必修となり、プログラミングを学んだ子どもたちがこれからどのように成長していくのかということに関心が集まっています。そのひとつの参考として注目されるのが、子どもの頃にプログラミング教育を受け、すでに現在大人になっている子どもたちの姿です。

遠山先生は、8月に開催されたWCCE 2022(World Conference on Computers in Education 2022)で「90年代にプログラミング教育を受けた子ども達のその後を追跡調査した研究」について発表しており、その内容を凝縮して紹介しました。

追跡調査の対象は、日本で最初にプログラミング教育を行なったと言われている戸塚滝登先生の教え子です。戸塚先生は物理学を専門に学んだあと小学校教員になったという経歴で、1980年代というかなり早い時期から小学校でコンピューターを使う活動を始めます。当時アメリカで開発されていた子ども向けプログラミング言語「LOGO」を参考に自らLOGOを自作し、教材を開発していました。例えば、タートルグラフィックスと呼ばれるカメのキャラクターを意図通りに動かす教材でプログラミングを行い、子ども達が「コンピューターに何をすれば良いか教えてあげる」というアプローチでプログラミングに取り組めるように学びを設計してきました。

プログラミング教育を受けた子ども達のその後

遠山先生は、インタビューを中心とした追跡調査により、大人になった教え子達からは、間違いを気にせず試行錯誤する習慣や、プログラミングを特別視しないという姿勢などが見られたことを紹介しました。プログラミング教育の影響だと明確に示せるわけではないものの、「プログラミングの一番大事な要素のようなものが残っているのではないかと思われます」と解説しました。

この報告は、参加者に新たな気づきを生み、前田氏は次のように感想を伝えました。「プログラミング教育というとどんな難しいことを学ぶのかという内容に注目しがちですが、自然体で付き合い、トライしながら少しずつ改良するというようなプログラミング的な考え方が大人になって役立っているということを、なるほどと思いました」。

これを受け、遠山先生は、戸塚先生が「透明なコンピューター」という表現をしていることを紹介しました。これは、子ども達がコンピューターを使うほど、コンピューターは特別なものではなく当たり前の存在になっていくという意味です。その説明を聞いた丸尾氏は、「今GIGAスクール構想で言われていることと共通しますね。その時代からやられていたというのが衝撃です」と驚きをもって受け止めました。

なお、戸塚先生の実践と大人になった子ども達の姿については、「子どもたちの未来を創ったプログラミング教育」(戸塚滝登著/技術評論社)という本で詳しく読めるそうです。

三島市教育委員会とサイボウズが取り組む学校業務効率化

続いて前田氏が、サイボウズ株式会社が三島市と行っている学校業務の効率化について紹介しました。三島市と同社の関係は、2021年に経済産業省による「未来の教室実証事業」で学校BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)に取り組んだことから始まり、事業終了後も継続して課題解決に取り組んでいます。

三島市の課題を、定例1on1ミーティングやウェアラブルカメラを用いたジョブシャドウイングなどを通して調査すると、大量の紙とハンコが中心の業務フローで、パソコンに入っている情報も結局紙で巡っているという状況が明らかになりました。さらに教育委員会から学校に日々大量のメールが送られていて、システム化で改善できるポイントが数多く見つかりました。

三島市の教育現場で抱える課題を整理

ただし、自治体が定める個人情報保護法の関係で、システム化が簡単には進められないのが現実です。そこでまずは個人情報保護に関わらない業務から着手。同社の業務プラットフォームkintoneを使って、学校施設の修繕依頼業務をシステム化しました。非常に煩雑だった申請や情報管理が圧倒的に楽で便利になり好評で、大きなきっかけとなりました。

個人情報に関わる業務フロー改善にも着手

2022年度は、2023年度からの個人情報保護条例改正を見込んで個人情報に関わる業務のシステム化にも取り組んでいます。保護者と学校をつなぐ家庭環境調査票、保健調査票のシステム化を目指し、現状の業務フローを調査するところからスタートしました。

調査の過程では、サイボウズ側が調査した現状の業務フローを教育委員会側で詳細に詰めてブラッシュアップしたり、各校ばらばらだった調査票の質問項目を校長先生が精査するなどの動きが生まれています。kintoneはシステム開発の専門家ではなくともシステム構築ができるツールなので、当事者である教育委員会や学校が主体となってフローを検討するのはとても重要で良い流れです。

サイボウズが調査した業務フロー(左)を教育委員会が主体となりブラッシュアップ(右)した

三島市の課題解決に伴走する前田氏は、「先生達は電気ノコギリがあるのに普通のノコギリを使っているような感じなんです」と表現します。そして、先生が授業以外の業務でどれほど忙しいかを改めて指摘し、「仕事を効率化して、もっと先生達に生き生きと子どもに関わって欲しいと思います。働き方改革の効果が、最終受益者である子ども達に還元されるようになればと考えています」とまとめました。

第4回研究会は3月に開催

プログラミング教育や学校の業務改善に貢献したいという志の参加者が多い中、第3回で共有された話はとても刺激になる内容で、それぞれが自分の業務に置き換えてできることを模索する感想が多くあがりました。次回第4回の「ワクワクする学びの場創造研究会」は、2022年3月8日(水)に開催します。本研究会の最終回となりますので、ぜひご参加ください。

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