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まずは対話からスタート〜SAJ「ワクワクする学びの場創造研究会」第1回レポート

一般社団法人ソフトウェア協会(SAJ)に、2022年度より新たに「ワクワクする学びの場創造研究会」が発足しました。2021年度で活動を終了した「プログラミング教育研究会」から有志が集まり、新たなつながりと学びの姿を模索する場として活動をスタート。2022年6月22日(水)に第1回の会合がオンラインで実施されました。

ワクワクする学びの場創造研究会が始動

進行するのは同研究会主査のサイボウズ株式会社執⾏役員中村⿓太氏。研究会の方針を示し、参加者の和やかな意見交換をファシリテートします。

<第1回研究会参加者(敬称略)>
中村⿓太(研究会主査/サイボウズ株式会社)、丸尾周平(研究会メンバー/トレンドマイクロ株式会社)、朝倉恵(研究会メンバー/さくらインターネット株式会社)、前田小百合(サイボウズ株式会社)、岩本栄美子(サイボウズ株式会社)、稲田正輝(トレンドマイクロ株式会社)、福田太樹(株式会社キッズライン)

第1回参加者のみなさん。それぞれの想いを語り合い笑顔があふれる

研究会の活動目的は、「ワクワクする学びの場」について開かれた対話の場を創出することです。「学び」というキーワードの範囲は子どもに限らず保護者、先生まで幅広く捉え、参加者間でアイデアや経験を共有します。

研究会のメンバーと活動目的(主査中村氏の資料より)

研究会は3ヶ月に1度、年間4回オンラインで実施し、メンバーとSAJ会員から自由に参加者が集います。研究会の様子は毎回このnoteでレポートするのでご注目ください。

コミュニケーションから化学反応を!

「ワクワクする学びの場創造研究会」の基本方針として中村氏が紹介したのが「エフェクチュエーション(Effectuation)」という考え方。これはバージニア大学ビジネススクールのサラス・サラスバシー教授が、アントレプレナーシップ研究を通して起業家の意思決定のモデルとして提唱したものです。

私たちに馴染みのある、目的から手段を導き資源を選ぶというステップで事業を進める「コーゼーション(Causation)」に対し、エフェクチュエーションは目的ありきではなく、自分の関心があること、できることなどの資源からスタートして手段や目的を導いていきます。その過程には人同士の相互作用が必須で、パートナーシップが新たな資源となり、ソリューションが生み出されるというのです。

「今回は、本当に私たち産業界がやっていること、やりたいことをまずは対話して、それぞれの化学反応で次の何かアイデアが生まれれば、それを新たな手段にするということを続けていきたいと思います」と中村氏。エフェクチュエーションで創出されたアイデアは、コーゼーションのモデルで実行するというように、両者のモデルを適宜組み合わせることをあわせて説明しました。

メンバーそれぞれの現在地

研究会メンバーは、これまで所属企業で学びに関する様々な取り組みを行ってきました。さくらインターネット株式会社の朝倉氏は、2017年より3年間にわたり「さくらの学校支援プロジェクト」を行い、北海道石狩市を中心に2020年度からの小学校におけるプログラミング必修化の準備に伴走したことを紹介。また、トレンドマイクロ株式会社の丸尾氏は、2018年より「トレンドマイクロ親子ワークショップ」をスタートし、子どもや親子向けのワークショップ、保護者及び教員向けの研修会を継続していることを報告しました。

中村氏はサイボウズ株式会社の取り組みとして、2018年に小学校のプログラミング教育の指導案で同社の業務用プラットフォームkintoneによるノーコードのシステム作りを提案したことや、2021年に経済産業省の「未来の教室」の「学校BPR(学校における働き方改革)」事業で調査及び業務改善提案をしたことを紹介。現在は、中学校や通信制高校とともに子どもの居場所作りに取り組んでいることにも触れました。

企業の教育活動が抱える “もやもや”

これらの報告から共通の“もやもや”として浮かび上がってきたのは、企業活動の中で教育に関する取り組みをどう位置付けるのかということです。朝倉氏は「社内でも、この活動はCSRなのか、CSVなのか、ESG投資なのかといった議論が生まれました」(※)と振り返ります。丸尾氏は「親子ワークショップとしては、活動当初からCSVを目指しています」と位置付けますが、活動を続けるにあたり、位置付けは目的に関する議論は絶えずあると共感を示します。

現場の各担当者が教育にかける温かい思いとは別に、企業活動として社内や上層部をどう説得するかという課題が静かに重く存在していることが見えてきました。中村氏は、「サイボウズにどうリターンできるかはまだわかりませんが、とりあえずエフェクチュエーションでやっているところです」と語り、結論を急がない姿勢を見せます。

全体として、企業の利益活動に即時直結しない部分で自由に動けることが、教育支援活動を支えているというのが現実のようです。


CSR(Corporate Social Responsibility):企業が社会的責任として行う慈善的な活動
CSV(Creating Shared Value):自社の強みで社会課題解決に貢献すること。利益活動と社会的価値の創出を両立させるESG投資:財務情報だけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を考慮して企業価値を測り投資すること

想いはプライベートとシームレス

対話の中で自然と聞こえてきたのは、それぞれの教育に対する想い。自身に子どもがいる参加者も多く、子ども達を通じて見える社会が教育への関心につながり、プライベートでPTAや地域活動に参加したりしている様子が共有されました。

例えば、稲田氏は小学校のPTAの副会長としてPTA活動のICT化や教職員のICT活用サポートなどを実施。前田氏もPTA会長の経験が長く、福田氏はスキルを生かし幼稚園でイベントのチラシデザインを手伝ったことも。中村氏はお子さんが教職に就いたとことが学校の職場環境への課題意識につながっています。

他にも、岩本氏は社会福祉士の資格を持ち、朝倉氏は保育士のキャリアがあり、丸尾氏は地域活動に熱心であるなど、それぞれが異なる学びとの接点を持っていて、企業人としてだけではなく個人の思いが活動をささえていることがわかります。稲田氏は「子どもに向けて何かをやることの社会的な意義を感じるというか、満足感のようなものがありますね」と表現しました。

対話が新たなつながりを生む

今回参加者の興味を集めたのが、「トレンドマイクロの親子ワークショップ」。丸尾氏は、もともと子どもをターゲットに始めたものの、保護者に伝えるべきことが多いことに気づき、親子一緒のワークショップや、保護者及び教職員向けの講習会に広げてきた経緯を紹介しました。

保護者及び教職員向けの講習会趣旨(丸尾氏の資料より)

PTAの活動やお子さんを通して見える学校の課題を細やかに見通す前田氏は、この保護者向け講習会に強く興味を示します。GIGAスクール構想により全国の小中学校にひとり1台のPCが整備された現状を受け、「学校がセキュリティを担保したいため、パソコンは授業でしか使いませんと声高に言ってしまう先生もいるんですよね。もっと文房具のように使えるといいのですが……。先生も怖いところがあるのはわかるので、親も子も先生も一緒に安心して使うにはどういう使い方をすればいいのか学べたらいいなと思っています」と課題感を共有し、講習会の実施に前向きです。

教育系の企業活動は、大きく募集をかけて大きく動くというよりも、現実にはこうして、人と人のつながりで輪が広がっていくものだといいます。この講習会をぜひ見学したいという声は他の参加者からも上がり、ここでまた大きく輪が広がりました。

丸尾氏からは、講習会の保護者アンケートの声が紹介され、保護者のICT活用に関する姿勢が前向きに変容した様子に、ワクワクが広がります。

保護者アンケートの声(丸尾氏の資料より)

第2回研究会は9月に開催

参加者の交流は、最後には各自の趣味や特技の領域にまで至り、音楽のバックグラウンドがある参加者が意外にも大勢いることがわかり、「このメンバーでバンドが組めるのでは?」という声もあがったほど。新たな発見や新しい出会いが生まれたり、漠然とそれぞれの中に存在していた “もやもや”を受け止め合ったり、豊かなコミュニケーションの時間となりました。

中村氏が示したエフェクチュエーションの効果は、これからどう展開していくのでしょうか。

第2回の「ワクワクする学びの場創造研究会」2022年9月7日(水)に開催されます。SAJの会員企業の方はどなたでも参加できますので、気軽な対話の場に皆さんも参加してみてはいかがでしょうか。

(書き手:狩野さやか)

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