見出し画像

リーダーシップのあり方と地域連携について意見交換〜SAJ「ワクワクする学びの場創造研究会」2023年度第1回レポート

一般社団法人ソフトウェア協会(SAJ)の「ワクワクする学びの場創造研究会」が2期目に入り、2023年度第1回目の会合が2023年6月21日(水)にオンラインで実施されました。本研究会の活動目的は、「ワクワクする学びの場」について開かれた対話の場を創出すること。3ヶ月に1度研究会を開き、メンバーとSAJ会員からの参加者が情報交換を行っています。会の方針については2022年度の第1回レポートをご参照ください。


学びについて考える意見交換が2023年もスタート

今回は、参加者の自己紹介のあと、2つのテーマを軸に意見交換が行われました。

<発表内容>
「学校情報化とリーダーシップのあり⽅ 〜北海道の事例をもとに〜」(さくらインターネット株式会社 朝倉恵氏)

「津和野における地域と連動した学校教育の取り組み」 (株式会社Nex-E 大庭成晴氏)

<2023年度第1回研究会参加者(敬称略)>
研究会メンバー:中村⿓太(研究会主査/サイボウズ株式会社)、朝倉恵(さくらインターネット株式会社)
参加者:次の所属のみなさん。株式会社Nex-E、株式会社MOVED、株式会社セック、株式会社Globable、キンドリルジャパン株式会社、株式会社インテリジェントウェイブ、サイボウズ株式会社、個⼈会員、久喜市⽴久喜⼩学校(ゲスト)

2023年度第1回参加者のみなさん

学校の情報化とリーダーシップ

さくらインターネット株式会社の朝倉恵氏は、学校の情報化にどのようなリーダーシップが作用しているかという点について、北海道新冠町での事例を交えて話しました。

朝倉氏は大学生とのワークショップでの経験をふまえ、リーダーシップには統率力や責任感などのイメージがあり、「自分には備わっていない特別なもの」と思う人が多いことを示した上で、リーダーシップというのは特別なものではなくもっと多様なものではないかと指摘しました。

具体例として紹介したのは北海道新冠町のICT活用推進体制です。さくらインターネットでは、新冠町のプログラミング教育からGIGAスクール構想の1人1台端末活用に至るまで、様々なサポートを行ってきました。その過程で、教育委員会主導のICT活用推進体制が教員主導に移行して走り出す様子を見守ってきました。

現在、同町でICT活用推進を担う「新冠ICT・プログラミング教育推進委員会」の委員長を務めるのは、ICTに特に強い先生というわけではなく、強い主張をしてリーダーシップをとるというスタイルではありません。「みんなの意見をどんどん引き出すということをすごく大事にされていて、みんなで課題を持ち寄ってみんなで悩んで、そして町全体の教育の方針にもフィードバックしていくという場が出来上がっています」(朝倉氏)。

朝倉氏の発表資料より

それを支えているのは、「先生と教育委員会の間にある非常に強い信頼関係」だと朝倉氏は指摘します。教育委員会のサポートがあるという安心感と信頼、また、子ども達にICTやプログラミングが必要だという強い思いと責任感が、関係者がつながり合い共に考え地域に拡張していくような「ゆるい」リーダーシップの姿を生み出しているというのです。

得意な先生が引っ張るタイプのリーダーシップの場合は、個別のルールができるばかりで拡張しづらく大きな動きになりにくいとも朝倉氏は指摘。新冠市のような「ゆるい」リーダーシップの姿が持つ可能性と利点を示しました。

この発表を受けて、同研究会主査でサイボウズ株式会社の中村⿓太氏は、「学校に限らず企業でも1人が強いリーダーシップを取るとそれ以上拡大しないということはありますね」と共感し、久喜市久喜小学校の太田我矩教諭は、教育委員会と教員の関係について久喜市の例を紹介しました。同市では、教育委員会の担当者と学校現場の教員がチャットなどでコミュニケーションしやすい環境があり、ICT活用推進の下地になっているということです。他にも学校現場のサポート経験が豊富な参加者からは、教育委員会と学校の関係についてさまざまな姿があることが報告されました。

なお、朝倉氏はnoteで北海道の先生の実践を紹介していて、今回の発表に関連する内容も含まれています。

地域を巻き込んだ教育サポート事業

続いて株式会社Nex-Eの大庭成晴氏が、同社が島根県津和野町で行っている学校教育関連事業について紹介しました。津和野町では、これまでに小学生向けプログラミング体験の実施や、地域の大人対象のパソコン講習、ITモラル教育などを実施し、現在は教育委員会のサポートも行っています。

同町での取り組みの中には、高校生と大人が一緒に動画制作に取り組む地域の部活動「YouTu部」を立ち上げた例もあります。地域の公民館で夜間に活動し、部として小学校に動画制作の出張授業を依頼されるなど、地域での活躍の場も広げました。小学生は吸収が早く、3回の授業でiPadでの撮影から編集までこなして動画を作り上げたということです。

地域の部活動の様子(左)。出張授業で小学生が製作した動画(右)。動画は空き家問題を扱い、建築士へのインタビューなども記録されている。

コロナ禍で継続できていない活動もありますが、同社では、今後は小中学校だけでなく大人、未就学児をふくめ町全体のIT活用を盛り上げていく展望を持っています。

この話を受け、中村氏は津和野町や新冠町のような小さな規模の町の方が学校教育のサポートを進めやすい可能性を指摘。個人会員の保阪政仁氏からも、大規模な自治体では学校数が多く、校長先生も教育委員会の担当者も入れ替わっていくので、サポートを行ってもなかなか長期的な道筋をつけられないという実情が共有されました。

また、地域の大人向けの講座にはどのような需要があるのかという質問が上がり、大庭氏は、WordやExcelなどのアプリケーションを教える講座が多いものの、動画編集の講座には、地元の個人事業主が商品のPR動画を作りたいと興味を持って参加するケースがあることを説明しました。

次回2023年度第2回研究会は9月に開催

今回も意見交換を通して相互に役立つ情報が共有されただけでなく、参加者の地域や専門領域は違っても、課題感には共通点があることが浮かび上がりました。次回2023年度第2回の「ワクワクする学びの場創造研究会」は、2023年9月13日(水)に開催します。SAJ会員の皆さんで関心をお持ちの方はぜひご参加ください。

[2022年度の研究会レポートも合わせてご参照ください]
第1回第2回第3回第4回


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?