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島嫁の憂鬱【in AKIKO's case】vol.7
亜紀子は抗い続けた。幼子の如き夫の身勝手さに抗い、姑の不遜極まりない主張に抗い、彼らに翻弄される我が運命にも抗った。ここで離婚したら地元の両親にも家族にも友達にも会わせる顔がないではないかと亜紀子は思ったのだ。大勢の友人や親族が石垣島までわざわざ祝福に来てくれて、涙を流して一郎との婚姻を喜んでくれたのだ。両親への花束贈呈の際には、二人で幸せになります!とか言っちゃったのに生後まもない子供を連れて
もっとみる島嫁の憂鬱【in AKIKO's case】vol.6
亜紀子がそんな変化を遂げつつある中で一郎の口から離婚理由が告げられる日がやってきた。出産から四五日目、離婚したいと一方的に告げられてから三五日目のことだった。
やはりそれはオンナだった。
半ば予期はしていたものの、一郎と出会ってまだ一年、出産後十日目にして告げられた離婚のその理由が「新しいオンナができたから」とは、うら若き新妻・亜紀子にして信じ難くも、呆れ果てるより他の反応を思いつかない
島嫁の憂鬱【in AKIKO's case】vol.5
そんな事とはつゆ知らない亜紀子は妊娠中毒症の危機もどうにか切り抜け、24時間あまりに及んだ陣痛の苦難も乗り越えて初出産で無事に男の子を産んだのであった。亜紀子によく似た色白の元気な男の子だった。亜紀子が出産したその夜、東恩納一族郎党が五十人ばかり集まって慶喜の祝杯を挙げたのは言うまでもない。
亜紀子は出産三日後に退院し、天使の如き神々しいまでのオーラを放つ息子と自室で過ごす健やかなる時間は亜
島嫁の憂鬱【in AKIKO's case】vol.4
若くて、初婚で、初産で、そして子供嫌いを自認している亜紀子の人生設計には元より妊娠も出産も育児もなかった。然るべくして亜紀子が妊娠出産育児に対しての満足な知識も情報も持っているわけがなかったし、関心や興味の欠片すら亜紀子は持っていなかった。亜紀子としては妊娠も出産も育児も出来るものならば未来永劫避けて通るつもりでいたのだが、本土都市部育ちの一人娘の至極個人的な思惑などを尊重するわけもなく、東恩納
もっとみる島嫁の憂鬱【in AKIKO's case】vol.3
亜紀子はそれまで沖縄に住む人々のことを美しい珊瑚礁の海に囲まれた島々で暮らす素朴で純情な牧歌的カントリー・サイダーであると特段の理由もなく信じていた。だが、どうやらそれは自分の単なる思い込みに過ぎぬのかも知れないと亜紀子が遂に気付く日が訪れた。結婚生活が4ヶ月目に入ろうと言う時だった。
実を言えば結婚話が進められている最中にも亜紀子は薄々気が付いていたのだが、『はあ?オマエなに言ってんの!?
島嫁の憂鬱【in AKIKO's case】vol.2
結婚式の喧騒が過ぎ去ったとき、亜紀子は胸のうちに何か釈然としないものがあることに気が付いた。それは心のしこりと言えばしこりと思えなくもないのだけれど、ちょっと疲れ過ぎて余計なことを考えてしまっているのだろうと亜紀子は自分を納得させた。確かに亜紀子はひどく疲れていた。結婚式の招待客が新郎側だけで二百人以上にもなり挨拶を交わすだけでもひどく慌しかったし、日頃はほとんど付き合いがなく縁戚関係があるのか
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