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カクヨムで見つけた凄い作品の感想の続き&「凄い創作」とは何なのか。

この記事で紹介した小説「妹売り」について、「他の人の感想を読みたい」と書いたら感想をもらえた。(ありがとうございます~)

「妹売り」について自分が感じたことがよりクリアになったので、それを踏まえて感想をもう一度書きたい。

最初に、なぜ感想の第一声が「面白い」ではなく「凄い」になったかと言うと、自分は「妹売り」に対して面白い(とも書いたが)よりも、圧倒的に「凄い」という感覚が先行している。
正確に言うと「自分には必要ない話だが、この話に強烈に惹かれる人が必ずいる」と思ったのだ。

自分の中の「凄い創作」は、「この物語は自分のための物語だ」と思わせるものだ。(もちろん読んだ人が単純に面白かった、と思う話も凄いと思う。あくまで凄さの段階の話)

個人的には読んだ人の三割くらいを面白いと思わせたら凄いと思うが、それ以上に読んだ人の0.1%(千人に一人)でも「これは私のために書かれたものだ」「私のことを書いているのだ」(*村上春樹はこういう感想を頻繁にもらうらしい)と思わせたら、その話は傑作だ。

「この話を『自分のためのもの』と思う人が必ずいるだろう」と思ったことが、「妹売り」を凄いと思った感情の根源にある。「文章が、テクニックが、構成が」という部分は、その次の段階で感じたことだ。


指摘されて気付いたが、言われてみれば話の構造は自分が好んで書くものと似ている。
自分が便宜的に「神さま」と呼んでいるものの話だ。

「妹売り」の「神さま」はレイジだが、この話はレイジという神が機能していない。砕けた言い方をすれば、サボっている。
レイジがサボっているから、ミンジュがクローズアップされたんじゃないかと思う。

この話の中で、世界を動かす力があるのはレイジとミンジュだけだ。
特定の登場人物にしか世界を動かす力がないのはまあまあよくある話だが、この話が独特なのは、他の登場人物の世界に対する無力さへの諦念(隷属性)の強さだ。

いただいた感想の中にあった「『妹売り』の世界は、『軍隊が市民を見殺しにしている国家』」という表現は、言いえて妙だと思った。

軍隊の例えで言うと、「軍隊が市民を弾圧しようが、守ろうとしていようが、他所に行って戦争していようが、存在しているのだから何かしらする(世界に干渉してくる)はずだ、というのが自分の世界観の前提で、「何もしない軍隊」は存在しない。
だから「何もしない軍隊が存在する世界」の話には、余り実感がわかない(他人事になる)のだろうと感じた。

これは理屈ではなくて、その人が生きて行く過程で独自に培ってきた世界観(というのが何であれば価値観とか物の見方とか)の話だ。

自分が考えるに「妹売り」は同じ世界観を共有する(つまり「軍隊が市民を見殺しにする世界観」に生きている)人には強烈に作用すると思う。たぶん理不尽なくらいに。


「妹売り」が「神さまが機能していない世界の話ではないか」と思うのは、同じ作者の次の作品である「兄貴の本命」との対比によってだ。

「兄貴の本命」はまだ五話までしか公開されていないのに、「妹売り」にはない引力を感じる。(要は無茶苦茶面白い)

最初は同性同士という設定に惹かれているのかな?と思ったが、たぶん違う。「兄貴の本命」は「神さまが強力に機能している世界の話」だから心惹かれているのだ。(*五話までの時点では)

この話の神さまは、「兄貴の本命」である要さんだ。

自分はこの要さんが凄く怖く感じる。
だから直接的には描写されていないにも関わらず、兄・実秋は要さんに理不尽なくらい惹かれていることも、その気持ちもわかる。関わりたくないと思いながらいつの間にか関わってしまっている主人公の夏来の気持ちもわかる。

自分が実秋や夏来の立場だったら、「こいつには、絶対に関わってはいけない」と思い、なりふり構わず全力で逃げる。(逃げ切れるかわからないけど、と感じてしまうところが怖いところだ)

「妹売り」は「機能していない神」であるレイジの話だったが、「兄貴の本命」は「神さまが発する重力に振り回される人間たちの話」になるのかな、と思っているが、五話を読むと少し違う方向にいくかもしれない。
そこも含めて続きを楽しみにしている。


余談

今回、考えたことから気付いたが、「妹売り」において「レイジがサボっているから、ミンジュがクローズアップされた」ということは、以前書いた「魂恋」という話は「レイジの立場にあるキャラ(苑)が機能しすぎているから、ミンジュの立場にあるキャラ(里海)がうまく描けなかったのかもしれない」と思った。

「魂恋」は「描きたいと思ったことが、自分の力量の範囲においては十分描けた」と満足しているけれど、最初から最後まで「世界に干渉できない無力な人間」だった里海というキャラは、「もう少し違う風に描きたかった」という悔いがある。

*「魂恋 ~たまこい。男娼として育てられたツンデレな男の娘と『生き神』として敬われている内気な女の子が、想いが成就するトゥルーエンドを目指す話~」

https://ncode.syosetu.com/n5938hm/

「小説家になろう」で掲載を始めたので、もし未読で興味を持って下さったかたがいたら読んでもらえると嬉しいです。(内容はカクヨム版と同じです)

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