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ブラジル出張

サンパウロ州内でバスを降りたことには間違いなかったが、いったいどこからが目的地であるプレジデンテプルデンテなのかはわからなかった。
渋谷と恵比寿の境目がわからないようなものだろう。

歩く方向を正確にするために、できる限り遠くに目をやり「白い塔」を発見することに注力すると、ぼんやりとそれらしいものが見えた。
リオデジャネイロの「コルコバードのキリスト像」なのではないかというブラジルバイアスとめちゃくちゃな土地勘で見当をつけていると、その輪郭に見えた外付けのハシゴ、それから両腕がついていないことから私の探している給水塔であることがわかった。

方向が決まった私の足取りは観光者のようにゆっくりになり、今度はカフェのようなものを探した。

通りにはたくさんのテナントがありそれぞれ原色で明るく何かしらのサービスを提供していることには間違いなかったが、その店名であろう大きく掲示されたアルファベット列は私にコーヒーが飲めるのか否かを簡単には教えてくれなかった。

外からでも飲食店に間違いないことが確認できた「Suco do Hori」という店に入った。幸いコーヒーのメニューは日本でも見慣れたものだった。「カフェアメリカーノ」とガラスケース内の小さな食べ物を指差し注文した。狙い通りの当たり障りないブラックコーヒーが口に広がると、上司がぼやいていた「ブラジル特有の異常なほどの甘さ」とやらを急に思い出し、きつね色で先端が少し尖った丸いのがソレだったらと期待し食べてみたが、残念なことに塩味があり肉とジャガイモを揚げたようなものだった。そのせいで急にビールが飲みたくなった私は、仕事を終わらせてしまおうと足早にカフェを出た。

もっとも、酒を飲んでも全く問題のない業務だったのだが、それ故に酔ってしまったら、もうどうでも良くなって給水塔まで行かないなんてこともありえた。

甘い物への未練と後のビールとで浮ついた気分を原動力に歩き続け、問題なく給水塔のふもとに辿り着いた。見上げると壁面には「MRV」のロゴが仕様書通りに塗装されていた。写真を何枚か撮り仕事を終えた。

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