2022/07/31(日)
「あれ、温かいのって2回も聞いたのに、冷たいの出しちゃった。」
と、立ち食いそば屋さんの大将がはにかんだ。
「いえいえ、いいんですよ。」
と、彼女は気にせず割り箸を割る。
僕らは東京の下町にいて、朝からそばを食べていた。
週末にかけて懐かしい人たちに会うべく、上京した僕らはそれらの予定をしっかりと楽しみ、そして2人でぐるぐると歩いた。彼女はとにかく公園や庭園が好きで、真っ盛りの夏の中、砂利を踏みしめ芝生を撫でて、日陰をなぞるようにして散歩をした。
海から吹く風がほんのちょっと、本当にちょっとだけ爽やかで、それだけが救いだったかもしれない。
4月から始まった新生活、そのままどこに行くこともなく、夏を迎えてしまった。2人で泊りがけの外出は半年ぶりか。
畑は何周かし、稲は立派に伸びるくらいの時間だ。事実、途中のサービスエリアで見た水田にたなびく稲は、大海原を畝る波のようだった。ドミノが倒れまた起き上がり倒れるように、明るい緑と暗い緑が交互に、そしてランダムに波打った。
「当たり前だけど、本当にいろんな人がいるね。」
「そうだね。当たり前にいることが、すごいね。」
人の営みは、どこへ行ったって果てし無いものだ。そして僕らもそこに含まれている。
ホテルの大きいバスタオルは、家のミニタオルと違って、少しバサバサするだけで髪や体を乾かしてくれた。エアコンを少し低めに設定できる贅沢と一緒に楽しんだ。
「どう?冷たいそば。」
「うん、むしろこっちでよかったかも。」
僕もよかったと思う。また2人でちょっと旅ができて。
こうして夏を迎えたこと、僕は誇らしく思う。
・・・
今日も夜が来ました。
Good night.
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