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TCGを遊びやすくするメカニクス

仕事でも趣味でもカードゲームを作っています、サイとです。
数ヶ月前に新規TCGの開発室に入りまして勉強の日々を送っています。
これはTCGを遊びやすくするメカニクスについて書いたエントリです。

ざっと羅列するとこんな感じ。
これだけだと分からないと思いますので、各項目を説明します。

少なくする

枚数

ゲーム全体のカードプール、ゲームで使用するカードの枚数、山札の枚数、手札の枚数、場札の枚数です。

ゲーム全体のカードプールは広く見積もらないと、コアユーザーがカードを集めきるまでの時間と投資金額が小さくなります。

個人制作の自作TCGのように運営コストを小さく抑える意図が無い限りは広く見積もった方が良いです。

山札、手札、場札の枚数が多いと、プレイヤーへの負担が増えます。
山札の多さは構築への負担、手札と場の多さはプレイングへの負担です。

テキスト

文字数が多いと心理的ハードルが上がります。
もしもプラットフォーム型TCGを作るなら、上乗りするコンテンツのファンが触ることを想定して、出来る限り「簡単そう」に見せるのが良いです。

テキストの多さは誤読や誤解を生んでプレイングに支障をきたします。
TCGはメインの客層が高年齢化しているので、文字のサイズが小さくなると可読性が下がります。

変数

ライフやマナといったボード上のもの。
コストや攻撃力といったカード上のもの。

変数が少ないほどプレイングが楽です。
ただ、テキストが少ないカードゲームにすると、変数を増やさないとカードにバリエーションを持たせるのが難しくなります。

種類

MtGで言うなら、土地、クリーチャー、ソーサリー、インスタント、エンチャント、アーティファクト、プレインズウォーカーです。

種類が多いほど新規ユーザーの覚えることが増えます。
覚えることが多いゲームはそれだけ間違いが増えるので遊びづらいです。

手番アクション

手番アクションとは自分のターン中にできることです。
例えば、「カードを場に出す」「カードで攻撃する」がそれにあたります。

基本的に最大2つです。3つ以上はサマリーが必要かも。
手番アクションは純然な「覚えること」だからです。

処理工程

フェイズ進行の数、カードを出した時、攻撃した時などの処理工程です。
様々なタイミングを挟んでカードの処理が行われるとミスが多発します。

慣れたプレイヤーほど処理を省略しがちですが、カードの処理が様々なタイミングで行われるゲームだと、処理の省略は致命的な進行不能を引き起こすので、処理を省略されないように最初から処理工程を減らしておきます。

領域

山札、手札、場、墓地といったものが領域です。
特に場が前衛と後衛に分かれているのは難易度を上げる要因になります。

場が将棋盤みたいにグリッド移動が可能なものだとさらに難しく。
同じ役割の領域を細分化するほどゲームは難しくなります。

終了条件

相手のライフを0にした時、山札が無くなった時のようなものです。
この終了条件が3つ以上あったり、ランダムで決定したりするようなゲームは試合運びが多岐にわたって初心者の出鼻を挫きます。

なくする

ここは能力のタイミングについてまとめています。
あっても難易度を上げないのは「登場時能力」だけです。
下記の能力は無い方がゲームの難易度を下げます。

常時

カードが場に置かれている間やカードが手札にある間みたいな、通常のプレイングとは別に頭の横で念慮しておかねばならない能力です。

初心者さんと戦ってて「いま常時能力はたらいてるからそれできないよ」って言った時の不遜そうな顔をよく見ます。
カードゲームに不慣れな人は盤面に吹いてる風が見えないんです。

誘発

何らかの行動や能力に対し、連鎖ないし割り込んで処理する能力です。
前述の処理工程の多さと誘発の多さは比例します。

誘発タイミングを増やすと処理工程が増えるので、もしも誘発能力をゲームに追加するなら誘発タイミングは増やさないようにしたいところです。

起動

起動とはカードの持つ効果を任意で発動する能力です。
手番アクションの1つとして「カードの能力を起動する」というルールを追加しなければなりません。

すなわち、たいていのカードゲームに登場、攻撃があるとするなら、起動というアクションが追加されるので手番アクションの基本数を越えます。

また、起動できるタイミングに制限がないと、次のインスタントと同じような煩雑さを持つ点に注意です。

インスタント

インスタントはMTG(マジック・ザ・ギャザリング)のカード種類の一つで、優先権を持っている時に使える能力です。
優先権についてはコチラを参照ください。

各フェイズやステップの開始時、そのフェイズやステップでのターン起因処理の後、アクティブ・プレイヤーは優先権を得る。
(中略)
優先権を持ったプレイヤーが呪文を唱えたり、能力を起動したり、特別な処理を行った後、そのプレイヤーが再び優先権を得る。
スタック上のオブジェクトが1つ解決された後、アクティブ・プレイヤーは優先権を得る。

http://mtgwiki.com/wiki/%E5%84%AA%E5%85%88%E6%A8%A9
優先権‐MTG Wiki

優先権の移動は複雑なルールですが、MTGを遊んでてあまり意識したことはない点を明記しておきます。

平たく言うと相手ターンにも動けるゲームはインスタントがあります。
つまり、相手ターンに動けるゲームは難易度が高いです。

各ゲームにおいて優先権の移動は規定されています。
たいていは場に出た時や攻撃した時、ダメージを受けた時です。

インスタント相当の能力をこの記事で表すとするなら、「手札や場、墓地といった領域から、優先権を得た時に発動できる能力」とします。
実際にはインスタントではなく優先権の移動をなくすることが大事です。

安定させる

試合時間

ゲーム終了までの時間が極端に短いものや長いものが出ないようにします。
平均値や中央値ではなく、最短と最長を意識しましょう。

最短と最長の時間だけ先回りして決めておくのが吉です。
それでもゲームの楽しさを著しく損なうデッキが開発されます。

ランダム性

引けたゲームは勝ち、引けなかったゲームは負けます。
山札からカードを無作為に引くTCGはすべてそうです。

運によって勝敗が決するゲームは賛否両論あります。
だから運は一部分でしか関係していないように見せなければなりません。

さらに同じ確率で引きたいカードを引けるかどうかはデッキ構築によるものが大きく、デッキ構築の幅広さは引けた引けないの運要素に関わります。

気をつけたいのは初手が酷い時の救済措置です。
最初の数ターン地蔵になると勝てないようなバランス曲線のゲームほど救済措置は強めに設けておくのが無難だと思います。

運要素の無いゲームなら考慮する必要はありません。

初心者熟練者の差

ランダム性が高いゲームほど初心者と熟練者の差を埋めます。
プレイングの自由さ、デッキ構築の幅広さが大きいほど、差が大きくなりやすいです。

それは悪いことではありません。
練習しただけ強くなれるのでコアなTCGプレイヤーが付けば良いでしょう。

私が作っているゲーム的には、初心者と熟練者の差を可能な限り縮めねばなりません。何なら初心者も熟練者も差が無くなるほどに。

熟練者になるまでにさほど時間が掛からないようにするのがベターです。
そこで今回のようにゲームを難しくするメカニクスをまとめました。

先読みのしやすさ

ランダム性が無いゲームは究極的には最善手を打ち続ける限り勝敗が明確に決まっているものです。

しかし、解析完了まで手数とばらつきがある場合は人間が処理できないので先読みするにも限界があります。

対局の開始時点で先読みの限界がゲームの勝敗に届く場合、そのゲームは開始時点で勝負が決まっていることになります。

それはそれでお互いがミスしないようにするゲームとして楽しいですが、カードゲームにそれを求めている層はかなりコアなプレイヤーです。

先読みの限界が短いものにした方が難易度は下がります。
また、対局の展開によって先読みの限界が変動するようなゲームだと、対局中に致命的なミスをした場合に取り返しが付かないです。

プレイングの重さ

初心者はそのゲームの何がアドバンテージになるかを知りません。
アドバンテージとはカードを使った時の損得の差や対戦相手との差です。

よく考えないと取り返しの付かないプレイングと考えても無駄だからとりあえずやっておくプレイングがあります。
ランダム性は考えても無駄なものとして作用します。

取り返しのつかないプレイングとそうでないものは常に一定である方が初心者は遊びやすいです。

たとえば、手札を減らすのは取り返しのつかないもので、ライフを減らすのはそうでもない、みたいな。

もし時間さえ掛ければ最適解が出せるゲームを作ろうとするなら、制限時間は設けた方が良いです。
そこに判断速度との勝負が生まれ、eスポーツになり得るかもしれません。

先攻後攻の差

どうしても先攻か後攻のどちらかが有利なゲームになります。
その差が10%を越えたあたりから運ゲーに感じられるようです。

先攻後攻の差はアグロ環境になると如実に現れます。
先攻を取ったから勝ちみたいなゲームになるのは良くないです。

状況の再現性

これは同じ状況がどれだけ起こるか、ということです。

同じ状況が起きやすくなることで定石が出来ます。
定石は新規プレイヤーの導線となるので、ゲームを熟達するまでの時間を短縮します。

競技志向のトッププレイヤーが多いほど定石が出来上がるまで早く、その定石は新規も含めて多くのプレイヤーに共有されます。

もちろん運営側からの共有も必要です。
漫画や動画での周知が大切だと思います。

新古カードのパワー差

TCGは古いカードより新しいカードが強いものです。
個人的には新古関係なくどのカードも使えるように作るべきだと思います。
しかし、それでは新しいカードが売れないのも事実です。

強くしていった先で、時おり古いのに強いカードが残ります。
製作者の未熟さから明らかに強いカード(パワー9)、環境の変遷によって強いカード(大寒波)などです。

強さを称え、ゲームで使えないようにするしかありません。
そのカードを持っていないプレイヤーが不利を被るからです。

どんどんカードパワーが上昇してはゲームの寿命が短くなります。
少しずつ強くしたり、古いカードは完全に使えなくしたり、弱くて使われないカードをサポートするカードを後から追加したりするのが無難です。

コラボ相手ごとの差

これはプラットフォーム型TCGの話です。
有名所なら『ヴァイスシュヴァルツ』がそれにあたります。

コラボしたコンテンツによってカードパワーに大きな差があると、弱いカードパワーだったコンテンツのファンが不利を被ります。
説明は省略しますが、色々と面倒くさいです。

(余談)勘の良い人はコンテンツごとにだいぶカードパワーに差があるTCGをご存知かもしれませんが、あれたぶん自社IPだから許されてるんじゃないですかね? 分かんないですけど。

区別しやすくする

ここはシナジーについてまとめます。
カードゲームにおける戦略とはシナジーの発見と運用です。
戦略を立てやすくなればゲームはより簡単になります。

カード同士の共通点

共通点があれば、その共通点をサポートするカードを用意することで、その共通点を持つカードで作ったデッキを構築できます。
これは遊戯王における「テーマ」と同一の概念です。

共通点が分かりやすくなるほど、デッキは作りやすくなります。
その共通点による有利不利があれば、自ずと戦略は決まってくるはずです。

カード同士の相性

共通点を持つカード同士の相性が良いとデッキ構築を簡単にします。
しかし、それはその共通点を持つカードの拡張版が出ることによって、容易にデッキパワーが上昇します。

デッキパワーが上昇するのは避けなければなりません。
インフレが引き起こされ、ゲームそのものを短命にするからです。

共通点を持つカード同士の相性を良くするのではなく、共通点を持つカードをサポートするカードを要にすれば、インフレは起きにくくなります。

2つのカードの相性が良いことをプレイヤーに伝えるためには、共通点を持つカードとその共通点をサポートするカードがわざわざゲームシステムで相性が良いと言わなくても分かるような見た目にすることです。

たとえば、キャラが「水着」という共通点を持つなら、その共通点をサポートするカードは「海」になります。
この辺は簡単な連想で済むように先回りで作るのが良いです。

まったく共通点を持たないカード同士の相性が良かった時、それは新しいシナジーの発見で、デッキ構築の醍醐味の一つです。
キャラゲーにおいてこういうシナジーはゲームバランスを破壊するので出来る限り起きないようにします。

キーワード能力

ある共通する能力に名称を付けたものをキーワード能力と言います。
シャドウバースの「守護」が良い例です。
盾のエフェクトと相まって守る能力だと一瞬で分かります。

じゃあこの攻撃を止める能力の名前が「挑発」だったらどうですか?
これハースストーンの名称なんですが、私は分かりにくいと思います。

ただ、友達が言うには攻撃する側が何を攻撃するか選べるゲームシステムだから、挑発されてるとそいつしか選べないってのがイメージと合致しているだそうです。

この名称の付け方をプレイヤーに馴染みのない言葉やニュアンスにしてしまうと、能力の効果と能力名が紐づかない煩わしさを生み出します。

(余談)ちなみにドラクエライバルズでは「仁王立ち」でした。
さすがに癖が強すぎませんかね?

まとめ

少なくする

  • 枚数

  • テキスト

  • 変数

  • 種類

  • 手番アクション

  • 処理工程

  • 領域

  • 終了条件

なくする

  • 常時

  • 誘発

  • 起動

  • インスタント

安定させる

  • 試合時間

  • ランダム性

  • 初心者熟練者の差

  • 先攻後攻の差

  • 状況の再現性

区別しやすくする

  • カード同士の共通点

  • カード同士の相性

  • キーワード能力

本当に言いたいこと

これらのメカニクスを入れなければたぶん簡単なゲームになるでしょう。
しかし、直感に反したデザインにすればやはり難しくなります。

それにこれらを心がけたところで別に面白くなるわけではないです。

このエントリの使い方

私は新規ゲームの立ち上げスタッフの一人ですが、ゲームの大本となるデザインを作っているわけではありません。

具体的な仕事内容は大本のゲームがあってそれに難癖をつけるものです。
難癖つけるのもコツが必要で、難癖1つとっても理由が要ります。

そこでこのエントリの出番です。
「それするとこうなるけど良いの?」っていう聞き方をします。

なんとこれでも有識者枠なんですが、もっと専門家はいるし、絶対に偏見が混じっているから、賛否両論を聞きたくてこのエントリを公開しました。

悪用法

難癖つける仕事ではなく、大本のゲームシステムを作る人は、このエントリを見ながら先回りして難癖を回避できるかもしれません。

でもそれは筆者からすれば悪用です。先に明記しておきましょう。
悪用を許します。ぜひ、どんどん悪用してください。
そこで悪用の一例を紹介します。

ゼロからゲームを作る際、ゲームのコンセプトを決めたら、そのコンセプトの可能性を出来る限り詰め込んで、一応の完成形まで作り込みましょう。

もはや煩雑さの極みです。
知らない単語とルールにない動きが入り乱れます。

だから、どんどんゲームをコンパクトにしていって、そのコンセプトが伝わる最小の形になるまで削っていきましょう。
その時にこのエントリを悪用してください。

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