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Hey Judeと、田んぼのスタジアムと、父親と

なんでもない月曜の朝、ふと日常にサッカーが入り込んできました。

「ガイナーレ、昨日の試合勝ったらしいな」。

12月5日のJ3リーグ最終節、ガイナーレ鳥取対ヴァンラーレ八戸戦の翌朝、父親から突然こう話しかけられて驚きました。

サッカーよりは野球派、趣味はもっぱらゴルフとパチンコ・スロットとお酒、性格は勝ち気で職人気質。典型的な土建屋の社長の父親が「ガイナーレ」と口にしました。

ん、聞き間違いか? 前日に僕がガイナーレをホームで初観戦できた余韻が幻聴となって、フェイントをかけてきているのか? 親父、ガイナーレ鳥取を居酒屋やパチンコ屋と間違えてないか? 地方のパチンコ屋、立体駐車場があまりにも大きすぎないか?

「終盤の3試合でやっと本調子かぁ。惜しいな〜」。

自身の幻聴を疑う間、父親は続けて口にします。シーズン通してガイナーレを追っていたような口ぶりです。

実家の跡継ぎを決めたと言えども、父と僕は普段そんなに話をしません。会話も言葉少なに要件を伝えるのみで、僕が思春期のころからコミュニケーション方法をお互いにアップデートできていないようです。

あ、たまに母親の愚痴を聞かされるのみなのですが、ユーモアとエッジがけっこう効いていて、息子はあれはけっこう好きです。

それはそうと、土建屋社長の父親が「ガイナーレ」とハッキリ口にしました。酔っ払いながら日本代表戦を松木安太郎みたいなテンションで語る父親が、です。

ガイナーレ鳥取は、そんなに鳥取県民の心に入り込んでいるのか? ガイナーレ鳥取のスタジアムはクソデカ立体駐車場はなくて、隣のグラウンドに駐車できるようになっているぞ?

ガイナーレサポーターの皆々様、本当に失礼しました。頭のどこかで、鳥取においてJ3のプロサッカーをマイナーな存在と位置づけていましたが、どうやら改める必要がありそうです。

少なくとも、鳥取県中部の土建屋社長が結果を気にかけています。これは県民のけっこうな関心事と言ってもいいのではないでしょうか?

というわけで! 今回は前回に引き続き、ガイナーレ鳥取の最終節観戦記の続編をお届けします。こちらの記事から読んでも、あちらの記事から読んでもいいような、逆さ絵みたいな構成を目指しているので、ぜひ前回の記事も読んでみてください。
(前回の記事)

ガイナーレ鳥取と僕、かく戦えり

父親からガイナーレの話題を振られるという衝撃の朝から時は戻って、12月5日の14時。僕は相も変わらず酔っぱらっていました。

ここは酒のせいにしておきますが、Axisバードスタジアムの電光掲示板には「14時5分キックオフ」と書いてあるのに、なぜか14時10分キックオフと勘違いした僕はスタジアム周辺を未だウロウロしています。試合前に生ビール1杯、ハイボール2杯はさすがに飲みすぎたと反省しています。

ウロウロしていたのはガイナーレを支えるスポンサー様方の一覧ボードらへんです。

我が家に毎朝届く日本海新聞を発行する新日本海新聞社、地元の居酒屋で焼き鳥や鶏から食うなら大山どり、小学校の頃から給食でも家庭でも白バラ牛乳、山陰帰省の贈答用の手土産にどうぞ銘菓「因幡の白うさぎ」、オヤジのスーツはグッドヒル。

自分を育ててくれた、これらの商品を日々提供しているスポンサーがガイナーレ鳥取というクラブを後押ししているのです。なんか、「おらが村」のチームというより、肉親とか親戚って言ってもいい距離感です。

僕、ガイナーレと4親等くらいなんですよ。食べたものも読んだものも冠婚葬祭で身に付けるものも、ほぼほぼ一緒なんですよ。ちょっと10年ぐらい会わなかったんですけど、年月の差なんて関係ないんですよ。

酩酊状態でガイナーレへの「親近感」を履き違えて、あらぬ妄想をしている僕ではございますが、キックオフのホイッスルを聞いて酔いを覚ますことになります。

急いでバックスタンドの自席に戻ると、もう試合がはじまっていました。しまった、試合前に流れるJリーグアンセムを聞き逃してしまっています。

ここからは、有料公開にさせていただきます。OWL magazineでは毎月700円で個性あふれる執筆陣による記事を毎日読むことができます! 執筆陣は、OWL magzine代表の中村慎太郎、ノンフィクションライターの宇都宮徹壱さんの他に、日本各地のサポーターやサッカーフリークたちです。全国津々浦々の「サッカー」がわかる記事が盛りだくさんです。ぜひ購読よろしくお願いします!

酩酊状態でスポンサー一覧のボード周辺で聞いた気もするのですが、他のどのスタジアムでも試合前にアンセムを聞いて涙目になってしまう僕としては失態この上ない事態。初観戦で少々浮かれた自分に白バラ牛乳ぶっかけてやりたいです。

ああ〜〜、真冬にハイボーーーール

しかし、故郷のスタジアムで故郷のクラブを応援するのって、なんか「こそばゆい」ものを感じます。これといった推しチームを持たない僕にとって、Jリーグって観戦するもので、応援するものではなかったんです。

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