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今さらながら、Jリーグってすごいことやってないですか? 地元・鳥取で覚えた「10年遅れの感慨」

夢はいまも巡りて、忘れがたき、ふるさと。

故郷の鳥取に帰省してきて、はや2週間が過ぎ、僕にとってのガイナーレ鳥取ホーム初参戦の日が来ました。Axisバードスタジアムとの20年ぶりの再会でもあります。

12月5日。年末の慌ただしさが次第に迫ってくる予感がするこの日。文字通り、普段は落ち着いている師(僧侶)でもハイプレスをかけんと走り回る師走のこの日。寒風吹きすさぶ、山陰の冬を象徴するような一日がガイナーレデビューの日と相成りました。

この日までの僕は繁忙期を迎えた家業の手伝いに加え、普段の料理好きを買われて実家で大人4人分の炊事当番の大役を仰せつかってさあ大変。朝9〜17時は家業の事務、17時以降は炊事棟番、夕食が落ち着いてからは編集者・ライターとしてのお仕事と、なにかと小忙しい2週間を過ごしていました。

悠々自適の独身貴族を謳歌していた東京での生活がウソのようにバタバタと緩やかな実家軟禁生活。それはそれは自由に過ごせないストレスが溜まっておりました。グギギギギ。

ですので、軟禁から脱出できる一時の翼を授かる12月5日を心の奥底から楽しみにしていました。実家は鳥取県中部の山村にございまして、最寄りのコンビニまでは車で15分と、軽い過疎のエリア。フラッと出かけて気分転換できる都会の生活って本当に恵まれていたんだなと感じた次第でございます。

君は香味徳を知っているか

そんなわけで、5日のお昼前。軽い寝坊をかました僕が最初に向かったのは、実家からの最寄り駅である由良駅前。ここにはラーメンの名店である「香味徳かみとく 由良店」がございます。

牛骨ラーメンは香味徳 由良店の本家である赤崎店が生み出したとか言われてますが、由良店は牛骨プラス豚の旨味で、独自路線を行くラーメンのようです。

ここは僕が学生時代から通い続けています。当時は先代の親父さんが切り盛りしていましたが、今は代替わりした様子。それでもしっかりと味を受け継ぐどころか、むしろ進化している印象さえ受けます。

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テールスープを思わせるような甘いスープ。提供直前にアツアツに熱された牛脂。朝でも昼でも夜でもおいしくいただける、全方位OKな味わいです。ほどよくパサついたチャーシューが主張しすぎなくて、麺とスープを邪魔しないんですよね。

ウェーブがかかった麺が豊潤なスープを持ち上げ、もやしやネギといったオールディーズな脇役たちが素朴な味わいにブーストをかけます。『孤独のグルメ』の井之頭五郎がここを訪れていたら「そうそう、こういうのでいいんだよ」とナレーションしてしまう一杯です。

あっという間に丼は空っぽで、しまった大盛りを頼めばよかったと一瞬後悔しましたが、そういえばこのあとAxisバードスタジアムでスタジアムグルメを食べるんだったと思い出し、むしろお昼ごはんを本意気で行き過ぎたとばかり反省しつつ完食。

モータリゼーションが進んだ現代社会の田舎においても、駅前で約半世紀のれんを掲げる老舗の底力を知り、学生の頃の味を守り続けてくれる店主に感謝の目線を向け退店。山陰線で一路、鳥取駅を目指します。香味徳、故郷の味を食べにまた来るよ。

曇天の鳥取市、うろこ雲のバードスタジアム

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鳥取県の県庁所在地、鳥取市。県庁所在地でありながら人が少ない鳥取市。天気予報は晴れでも、たいてい雨が降っている山陰。12月5日もこんな特徴を再現していて、曇天のもと鳥取駅の駅舎がお出迎えしてくれました。

試合開催日にも関わらず、「がんばれガイナーレ鳥取!」みたいな横断幕がどこにも見当たらず、シャトルバスや路線バスは運行しておらず、一瞬試合開催日を間違えたか、やらかしたな俺と疑いましたが、スマホを見ると今日はしっかり12月5日。いくらなんでも盛り上げなさすぎだろうと、控えめな鳥取県人といえども控えめすぎるだろうと思いながらタクシーに乗り込みます。

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タクシーの車窓から見た因幡の山々は紅葉に染まり、バードスタジアム周りの田んぼは来たるべく収穫の秋に備え、養分を蓄えていました。

スタジアム周辺まで来ると、曇天はうろこ雲が広がる晴天へ様変わり。あまりの鳥取市の普段着の姿と曇天に、サッカーを見るモードをそがれてしまってましたが、ようやくキックオフが楽しみになってきました。

スタジアムに向かう最中、車窓から田んぼをぼんやり眺めていると昔のことを思い出しました。

小学校のとき、地元のサッカークラブでボールを蹴り始めてはじめてバードスタジアムを来たときのこと。あのときは、こんな巨大な建造物が鳥取にあるのか、何を間違ってサッカー専用スタジアムが鳥取にできたんだろうかと童心ながら思いました。

サッカークラブで県大会のベスト4まで勝ち進み、このスタジアムで強豪に負けたときのこと。精一杯がんばって練習したけど、勝てなかったな。勝ちたかったけど、相手のほうが練習して強くなったんだろうな。

スタジアムのカクテル光線を背に、父親の運転する車でスタジアムをあとにした日。努力の大切さを学んだのもバードスタジアムでした。

このスタジアムでプロサッカーをやるんだ。人が少なくて、みんな控えめ。天気はいつも悪い鳥取だけど、地元のクラブがJリーグを戦うんだ。バードスタジアムでJリーグをやるんだ……。

ガイナーレ鳥取がJリーグに参入したのは2011年ですが、僕は2010年から上京していて、その実感を味わえずにいました。2021年12月5日13時、鳥取の人が抱く感慨を10年遅れで味わいつつ、バードスタジアムが眼前に現れました。

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最後にバードスタジアムを訪れたのは約20年前。あのときと変わらず、付近には広大な田んぼしかありません。

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