物語のタネ その七『けもパンファイトクラブ #34』
吾輩は猫である。
名前は、もうある。
ピケ丸、である。
動物達の格闘技リーグ“けもパンファイトクラブ“ファイター
vs
恐竜たちの亡霊“ゴーストザウルス“。
地球生存権をかけた“哺乳類vs恐竜“の5vs5のサバイバルマッチ。
第1戦は、
首から尻尾にかけて鋭いプレート状と牙状のトゲを持った恐竜「ダケントルルス」
リングネーム「ハリー・ルイス」vsストンピングで吾輩を苦しめたオオカミの「ウルフル武雄」。
ぐぐぐぐわッ!
ウルフルの顔が痛みで歪む。
グサリとウルフルの太ももに突き刺さっていた巨大なトゲ――いや尻尾に生えた牙とでも言った方がふさわしいか――をハリーはぬるりと抜いた。
その傷口から血が噴き出す。
ウルフルは、ヨロヨロとロープに寄りかかり、辛うじて立っているという状態だ。
さっきまで大きな声援を送り、盛り上がっていた観客席からは、今度はどよめきに似た低い悲鳴が漏れる。
「けもパンファイトクラブ」は勿論真剣勝負のガチンコファイトだが、あくまで格闘技。
こんな本当の死闘は誰も見たことが無いのだ。
「そろそろフィニッシュな」
ハリーが巨大なトゲのついた尻尾をグルグルと回し出した。
その勢いに乗って、次は立ったままバレリーナのように回転を始めた。
さらに勢いのついた尻尾がウルフルに迫る!
もう、これ以上は・・・
吾輩はタオルを握りしめ、ウルフルを見る。
その目は絶対にタオルを投げるな、と言っている。
躊躇する吾輩。
その時!
グワシシッ!
ハリーの尻尾がウルフルの左肩に突き刺さった!
うわぐぐわッ!!
ウルフルが叫ぶ!
ふわっ、吾輩はタオルを投げ入れた。
カンカンカンカン!
ゴングが鳴り響く。
「ドクター!」
二人の間に割って入ったレフェリーが叫ぶ。
ドクターと共に担架がリング上に運び込まれる。
「すぐに手術だ!」
傷を診たドクターが叫ぶ。
担架の上でグッタリとするウルフル。
血の付いた尻尾をゆらゆらさせながら、ウルフルを見下ろすハリー。
担架に乗せられたウルフルがリングを降りてくる。
吾輩たちはすぐに駆け寄る。
ウルフル!
吾輩たちの声にうっすらと目を開けるウルフル。
「すまん・・・負けちまった・・・」
「しゃべるな。とにかくお前は良くやった!」
吾輩は泣きそうになるのを辛うじて堪えて声を絞り出す。
ふっと、一瞬口元に笑みを浮かべるウルフル。
そして、目を閉じた。
「急いで!」
ドクターの叫び声。
ハッとして道を開ける吾輩たち。
会場を後にするウルフルの姿を見送りながら、吾輩の心の中に後悔の念が・・・。
あそこで躊躇せずにタオルを投げていれば、ウルフルはここまでの重傷を負わずに済んだのに・・・。
この戦いに勝利すること、それは主将としての吾輩の務めだけれど、それと同時にメンバーの命を守ることも・・・。
「ウルフルは本当に良くやった、あいつの戦いを無駄にはしない」
ペケ丸が吾輩の肩を叩いて言う。
「ぼうっとしている暇は無いぜ。先方さんはどうやらせっかちだ」
リングを見ると既に新たなゴーストザウルスがマントを脱いで立っていた。
全身がゴツゴツと硬い板のようなもので覆われている。
長い尻尾の先に、今度はハンマーのようなモノが!
「アンキロサウルス、だな」
その声に振り向くとハム星さんがスマホ片手に立っていた。
「画像検索よ、便利だね」
サムアップのハム星さん。
「じゃ、俺の番ね。ちょっくら行ってくるわ」
ドリル藤岡・マンドリル。
いつも赤い顔を更に赤くしている、まるで燃える炎のように。
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