物語のタネ その七『けもパンファイトクラブ #42』
アーツに頭を掴まれて無理やり立たされるグレート。
リング上のグレートの顔を見る。
その目の炎は消えていない。
逆にメラメラとしている。
だが、度重なるキック攻撃を受け、もうフラフラで立っているのもやっとという状態なのは誰の目にも明らかだ・・・。
そんなグレートに向かって、アーツはトドメの一撃を加えようとしている。ヤツの後ろ足、巨大なカギ爪が鈍く光る。
あれが刺さったら、本当にトドメだ。
吾輩の脳裏に第1戦のウルフルとハリーの戦いが蘇る。
尾に巨大なトゲを持った恐竜ダケントンルルスのハリー。
そのトゲがウルフルの体に突き刺さった光景が。
あの時、吾輩がタオルを投げ入れるのを一瞬躊躇したために、ウルフルは今病院のベッドの上だ。
勝利はもちろん大切だが、仲間の命を守ること、それも主将の役目だ。
ここはタオルを投げ入れるしかない・・・。
吾輩はタオルを握りしめた。
あ!
既にアーツが蹴りの姿勢に入っているではないか!
しまった、物思いに耽り過ぎた!
アーツが体をよじり、後ろ足が大きく後方に振られる。
そこから勢いよくその足が降り出される!
あああ、グレートウォーーーーー!
ガシコオウォーーーン!!!
金属と金属がぶつかり合うような硬い衝突音が会場に響く。
リングを見ると、アーツの後ろ足の巨大なカギ爪をグレートが・・・
咥えている⁈
正確にいうとカモノハシの嘴でカギ爪を横から咥えている状態。
「さすが合気道の達人だな」
隣に立っているペケ丸がポツリ。
ペケ丸を見る吾輩。
「ギリギリのところで見切って咥えやがった」
さすが、達人・・・。
フラフラにながらも間一髪のところでかわしたか。
吾輩はリングの上のグレートに視線を戻す。
と、グレートの目が・・・ニヤリとした。
あれ?もしかして狙ってた⁈
「おっ、とっ、と。おい、離せ!」
グレートにカギ爪を咥えられて、一本足状態のアーツ。
「ふぁんひょくふゃふぇんひゃ」
グレート、何言ってるかわかりませんよ。
グレートの口からカギ爪を抜き取ろうとするアーツだが、グレートがガッチリと咥えてビクともしない。
と、次の瞬間。
グレート足がマットを蹴った。
そしてオリンピックの体操鉄棒の選手のように、カギ爪を咥えて大車輪!!アーツは一本足立ちのまま、自分の足先でぐるぐる回転しているグレートをただ見ている。
トォウォーーー!
掛け声とともにグレートが嘴を離した。
その勢いで!
ドロップキィィィーーーック!!
アーツの胸にグレートが立っている!
いや、立っているというか、その足先が突き刺さっている!
思わず自分の胸を見つめるアーツ。
そこにはグレートの後ろ足。
そこから視線を上げていくと、グレートの顔。
「おさらばだに」
その声を聞き終わると、アーツの頭がぐらりと大きく後ろに傾き、そのままドシーンと全身が倒れた。
倒れたアーツの胸の上に、グレートが立っている。
まるでバレリーナのように爪先立ちで。
レフェリーがアーツに駆け寄り、首筋に手を当て、両手を頭上で振った。
カンカンカンカン!
ゴングが打ち鳴らされた。
ウォーーーーー!
会場から大歓声が湧き起こった!
勝った!
やった、やったぞ!
すごい、すごいぞグレート!!
大歓声の中、アーツの胸の上からトンとマットに降りると、ペタペタと足音をさせて、グレートが赤コーナーに戻って来た。
「やったな!すごいよ、グレート!」
吾輩、ペケ丸、ハム星さんが一斉にグレートに声をかける。
「ま、こんなもんだに。デビュー戦としては上出来だに」
その嘴がハニカんでいる。
多分。
あ、そうだ一つ気になることがあったのだ。
「グレート」
「ん?」
「カギ爪咥えていた時、なんて言ってたの?」
「ん?ああ、あれ。短足舐めんなよって」
はい、その禁句、肝に銘じておきます・・・。
これで2勝1敗!
王手をかけたぞ。
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