物語のタネ その七『けもパンファイトクラブ #50』
「いやー、すまんだに。勝手に体が動いちゃっただに」
満身創痍のペケ丸を背負ってリングを降りながら、グレートかもはしがペケ丸に謝る。
「ありがとな」
ペケ丸がボソリと呟く。
吾輩はグレートからペケ丸を引き受けようと歩み寄る。
「ペケ丸、タオル投げそうになって。ん、おい、ペケ丸!!」
ペケ丸の意識が無い!
ハム星さんが駆け寄ってペケ丸の顔を覗き込む。
「おい、ペケ、ペケ!救護班、早く!」
担架を持った救護班が駆けつける。
ぐったりとしたペケ丸を担架に乗せる。
一刻も早く病院に!
その時、意識が無かったペケ丸が、突如吾輩の手首を掴んだ。
「ちょっと待って!」
吾輩は救護班に向かって叫ぶ。
「ペケ丸!気付いたのか!ペケ丸」
担架の上のペケ丸は荒い息の中、何かを言おうとしている。
「ペケ丸、どうした?なんだ?」
吾輩は顔をペケ丸の口元にぐっと近づける。
「・・・か、・・・か・・・」
「ん、か?か、がどうした?」
ペケ丸の口元に耳を寄せる。
「・・・か、勝たなかったら・・・こ、殺すぞ」
そう言うとペケ丸はまた意識を失った。
「まずい、早く運べ!」
救護班が叫ぶ。
慌ただしくペケ丸を運んで会場を出ていく救護班。
その後ろ姿を見つめる、吾輩、グレート、ハム星さん。
「ペケ丸、なんて言ってただに?」
「勝たなかったら、殺すって」
「あいつらしいな」
ハム星さんがフッと鼻で笑いながら言う。
「ですね」
吾輩もなぜか笑みが。
何なんだろう、この感覚。
体の中にマグマのようなものが湧いて来るようだ。
闘志?
いや、ただそれだけじゃない・・・。
「けもパンファイトクラブ」新人王トーナメント決勝戦。
ペケ丸と対戦したあの試合の前も闘志はメラメラと燃えていた。
でも、それとも違う何かがある。
仲間
今の吾輩には仲間がいる。
ウルフ、ドリル、グレート、そしてペケ丸。
ライバルだった奴らが集まってチームを組んで、この闘いを通して仲間になった。
今の吾輩は、そんな彼らの思いを背負っている。
すごいプレッシャーだ。
でも、すごいパワーだ。
彼らとの絆がとめどなくエネルギーとなって湧いて来る。
そして、吾輩のご主人、しずか嬢。
少ないお小遣いの中から買ってくれた「KISSキティ」のタオル。
勝利の汗をこのタオルで拭えるように、吾輩、頑張りますよ。
吾輩の視線はリングに、そしてその耳に会場の興奮が再び入って来た。
「哺乳類vsゴーストザウルスー!ファイナルバトルを開始します!!」
リングアナウンサーの叫び声が響く。
それに応えるように会場中の熱気が一段と高まる。
「じゃあ、行ってきます」
「おう、しっかりな」
ハム星さんが吾輩の背中にそっと手を当てる。
「頼んだぞ」
「はい」
吾輩はリングに登る階段に足をかけた。
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