物語のタネ その七『けもパンファイトクラブ #51』
リングへ上る階段は、三段。
一段一段噛み締めながら上る吾輩。
この階段は天国に向かっているのか、それとも、地獄に向かっているのか・・・。
ん?天国だとしても死んじゃうじゃん!
ぶるるる、いかん!
悪いイメージは禁物だ。
やり直し!
「おい、ピケ、なんで降りて来たんだ?」
ハム星さんが訝しげな顔で吾輩に聞く。
「いや、あの別に」
説明するのもなんなので、適当に言葉を濁す吾輩。
さて、もう一度。
さっきは右足からだったから、今度は左足からにしてみよう。
まずは先にイメージだ。
そうだ、勝利をしているシーンを思い浮かべるのだ。
相手は・・・相手?
相手は、あのティラノサウルスだよな・・・。
あいつがリングに倒れている、息も絶え絶えに・・・。
勝った!哺乳類チームの勝利だ!
大歓声に湧き上がる会場!
ピケ!ピケ!ピケ!
皆、吾輩の名前を呼んでいる。
いや、違うよみんな!この勝利は吾輩だけが成し遂げたんじゃない!
この仲間達、皆の力で成し遂げた勝利なんだ。
いいや、それだけじゃない。
この勝利はこの会場にいる皆の力、地上に存在する全ての哺乳類達の力で成し遂げたものなんだよ!
あ、しずか嬢。
勝ちましたよ!
しずか嬢のおかげです。
この「KISSキティ」のタオルのおかげです!
やった、やりましたよ!
エイドリアーン!
「おい、ピケ、なんだエイドリアーンって」
はっ!
ハム星さんの声に我にかえる吾輩。
気付くと、両手を挙げていた。
イメージトレーニングがバッチリ過ぎるほどバッチリ極まってしまったようだ。
「レフェリーが呼んでるぞ」
「はい」
リングへの階段を上がる吾輩。
おっと、左足から左足から。
エプロンサイドに上がり、ロープをくぐってリングの中に。
コーナーに背をもたれさせ、深―い深呼吸をひとつ。
よし、バッチリだ。
「ゴーストザウルスサイドも早くリングへ」
レフェリーが声をかける。
ヌッ。
リングの下から山が生えて来たかと思うような巨体が現れた。
その姿は大きなガウンの中に隠されて見えない。
だが、ガウンの先から少し出た口が開くと、そこには巨大な鋭い牙が!
ティラノサウルス―――
恐竜史上最強にして最恐、闘う相手にとっては最凶な存在・・・。
エプロンサイドまで上がると、トップロープを跨いでリングに入って来た!デカいなマジで。
コイツが今回の親玉だ。
けもパン史上伝説の最強チャンピオン・パンダー杉山を拉致し、吾輩のライバル・ペケ丸に瀕死の重傷を負わせた奴。
赦さん、絶対に。
吾輩はそのガウンのフードの奥の顔をジッと睨みつけた。
リングアナがマイクを持ってリング中央へ。
コホン、と一つ咳払い。
「哺乳類vsゴーストザウルス、地上生存権をかけた5対5のサバイバルマッチーーー。いよいよ第5戦、ファイナルマッチをーー行います!」
ウォーーーーーー!
大歓声が湧き上がる。
「赤〜コーナー、哺乳類代表、三毛ね〜こ〜、ピ〜ケ〜〜ま〜〜る!!」
ドウォーーーーーーーーー!
更に上がる大歓声。
皆の期待がエネルギーとなって吾輩の中に入ってくるようだ。
「続きまして、青コーナー。ゴーストザウルス代表、ティラノサウルス、キラー・ザ・デスト〜ロイヤー!」
キラー・ザ・デストロイヤー。
覚悟しろ!
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