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物語のタネ その八『ツッパリハイスクールRR #14』

俺の名前は北田勝。62歳。職業俳優。
コワモテの演技派として主にヤクザ、クライムものの作品に出演している。
今、俺とその役者仲間たちは、一粒で8時間「高校時代の自分の姿」に戻れる薬を使って「現役のツッパリ高校生」になり、文化祭に向けて「お化け屋敷部」に入部。
突如の活動予算大幅カットの大ピンチを「目隠しお化け屋敷」プランで乗り切ることに。

土曜日ーー
いつものお化け屋敷部の部室。
いや、今日は空気が違う。


いつものメンツに加えて、2年B組副委員長の村内さんもいるのだ。
そう、今日は村内さんを加えての初の会議。
具体的に「目隠しお化け屋敷」の中身、そして村内さんの声優活動第一弾?の内容を決める日なのだ。

「それで、どんなストーリーにしようと思っているの?」

心なしかウキウキモードの村内さん。
本当にホラーが好きなんだな。

「うん、設定としては霊達がウヨウヨいる洞窟」

村内さんに告白?お願い?をOKしてもらってから死ぬ気で中身を考えてきた内村くんが、それこそ幽霊のような青白い顔で答える。
顔は青白いんだが、心は充実しているせいで目は爛々としており、それが余計に怖さを増している。

「主人公、あ、お客さんのミッションは、洞窟の奥にある生霊の棺を持ち出すこと。生霊は赤ちゃんサイズの大きさで、お客さんはそれをデイパックに詰めて出口を目指すところからストーリーはスタート。このミッションを依頼した村の長老からは“絶対に後ろを振り返ってはいけない“と言われているから、とにかく出口に向かって進む。だけど真っ暗な中、様々な悪霊達がお客さんを追いかけてくるんだ」

一気に喋り終えると、内村くんはふう〜っと大きく息をついた。
「悪霊達に囲まれるのね、ゾクゾクしちゃうね」
口をすぼめながらぶるぶるっとする村内さん。
しかし目力が強い。
マジで好きなんだな、怖いのが。

「それで、この悪霊のイメージは?洋風?和風?」
「イメージは、和」
すかさず答える内村くん。
「和と言っても、いわゆる怪談系の和ではなくて、日本の国作りの神様的な日本書紀的なおどろおどろしさ」
「イザナギ、イザナミ的な⁈」
「そうそう」
「黄泉国の世界観!」
「それそれ!」
「あー、気持ち悪いドロドロというかグチャグチャ〜とした感じがゾクゾクしちゃうね」
「でしょうー!」

盛り上がる内村くんと村内さん。
横を見ると、滝内、松林、村井の3人がポカンとしている。
俺も同じだが。
これが、オタクと言われる人種なのかな。
とにかくついていかないと。

「ごめん、ちょっと詳しく教えてもらえる?」
盛り上がる二人の会話に水を差すようで申し訳ないなと思いつつ、俺は二人にお願いした。
「えっと、まずは黄泉国ってのはねーー」
内村くん、時に村内さんも語りだす。
日本書紀の話から始まり、それが怪談とどう違うのか?そのおどろおどろしさの魅力、そして追いかけられるというシチュエーション効果の解説まで。
とにかく二人して熱心に解説をしてくれた。

俺達は、解説を受ける度に、ほー!へー!の連発。
その内容は、ある意味「面白いエンタメの要素とは?」の講義になっていて、正直とても勉強になった。
プロだってことにあぐらをかいてちゃダメだな、人生いつまでも勉強だ。
そして、歳を取ったら若いやつから学ぶ、だ。

「それで、この悪霊達の声をやるのが、村内さん。全部?」
村内さんの顔をマジマジと見て、松林が聞く。
「はい!声、使い分けて」
「村内さんをなめんじゃねえぞ」
何故か、松林に凄む村井。

“おいてけ〜 おいてけ〜〜“

村井の声を無視して、どこから、いや、地の底から怨みに満たされたデスボイスが響いてきた。
「だ、誰〜?」
さっきの凄みはどこへやら、村井がへなちょこ声を出す。
「私です。村内です」
村内さんが村井の顔を覗き込んでにっこり。
あ〜ホッとするのとドキュンとするのでWにやられてヘナヘナとする村井。
「村内さん、すごいね!」
思わず、俺は感嘆の声をあげた。
俺たちもコワイ声なら出す自信はあるのだが、怖いじゃなくて、強い声だからな。
しかし、村内さんがいれば声関係は大丈夫そうだ。
その時、松林が

「ねえ、目隠し4Dみたいに出来ないかな?」

「目隠し4D?なんだよそれは」
滝内が聞く。
「視界を奪われて聴覚が敏感になっているけど、敏感になっているのは聴覚以外もだと思うんだよ。だからそこを攻める!」
「確かに!」
内村くんがバシッと手を叩いて賛成する。
「見えないと、水滴がピチャッと垂れて来ただけでもビビるよね、きっと。目隠しして洞窟、いや教室の中を出口まで歩く途中に、声に合わせて色々な刺激を与えていくと・・・。うん、これはいけるよ!」
興奮する内村くん。
しかし、その横で、何か思案顔の村内さん。
「村内さん、どうしたの?」
それに気づいた村井が問いかける。
「歩き回る。そう、実際に歩いた方がいいのよ。でも声を効果的に聴かせるとなると、その先々でスピーカーが必要になるわよね。しかも良いタイミングで聴かせないといけないし、どうしたらいいかなと思って」
「確かにそうだね・・・」
内村くんをはじめ、うーんと悩んでしまった俺たち。

すると、滝内が何かを思い付いたのか、スマホをいじり始めた。
そして目当てのものを見つけたのかニヤリとすると、
「これだよ」
とスマホ画面をグイッと皆に突き出した。

「ウォーキングマシン」

「ウォーキングマシン?」
と内村くん。
「そう。この上を歩かせるんだよ。これでお客さんは歩いている感じがするだろ。でも、同じ場所にいるわけだから、声を聞かせるスピーカーは同じでいい。色々と刺激するのもやりやすいだろ」
「ナイスアイデア!滝内くん!」
絶賛の村内さん。
「でも、それどこで手に入れたらいいの?」
「あ、これうちの」

滝内、そんなものが家にあるのに、なんで膝が悪くなるほど太っているんだ⁈

「滝内くんの家にあるの⁈だから、そんなにスリムなんだー」

いや、村内さん、今の本当のこいつの体型は!
おい、滝内、何照れてんだよ。

でも、滝内のナイスアイデアで形は決まったぜ、目隠しお化け屋敷!
しっかし、楽しいな、文化祭作り!



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