物語のタネ その七『けもパンファイトクラブ #52』
「両選手、中央へ」
レフェリーから声が掛かる。
デストロイヤーがゆっくりとガウンを脱いだ。
深く被っていたフードの中から現れたのは・・・デ、デカい!頭!
しかも、悪そうな顔してる。
街で会ったら絶対に目を逸らしちゃいそうな。
でも、今日の吾輩は違う。
ジッとデストロイヤーを見つめる。
ゆっくりと奴もリング中央へ。
一歩一歩近づいて来る度にリングが揺れる。
頭もデカイが体もデカいな。
レフェリーを挟んで睨み合う吾輩とデストロイヤー。
さすが、史上最強にして最凶の恐竜と言われるティラノサウルスだ。
威圧感がすごい。
ぶふう〜っ
大きな牙が並んだ口から湿った息が漏れてくる。
そこに血の匂いがするのは気のせいか・・・?
「ねこは、初めてだな」
デストロイヤーがニチャッっとした笑いを浮かべて呟いた。
「何がだ」
問いかける吾輩。
ギロッとデストロイヤーの目が吾輩を睨む。
「パンダ野郎とどっちが歯応えがあるか、楽しみだぜ」
奴の牙がと光る。
吐く息が一段と血生臭く感じる。
やはり、この牙で伝説のチャンピオンパンダー杉山を襲って拉致したのか。パンダーの血に染まったその牙で吾輩をガブリというわけか・・・。
ふざけるな、そうはさせん!
その牙、吾輩がへし折ってやる。
でも、どうやって?
正直作戦が思いつかん・・・。
「決着は、棄権、反則、もしくは死亡によって決まります」
レフェリーの声がする。
決着は、死亡によって―――
このルール今日聞くのは5回目だ。
4回目までは単なるルールの復唱だな、という感じだったけど、自分がいざ言われると、重いな。
ウルフル、ドリル、グレート、ペケ丸もみんなこんな気持ちでこの言葉を聞いていたんだな。
生きるか死ぬか、殺るか殺られるか―――
命懸けの闘いなのだ。
それを闘い抜いてきた4人の仲間のことを思えば、この勝負、絶対に負けるわけにはいかないのだ、命に替えても。
あ、死んじゃうと負けか!
「両者、それぞれのコーナーへ」
デストロイヤーが不気味な笑みをたたえた目で再び吾輩を見る。
その目をギッと睨み返す吾輩。
1秒、2秒―――
ふっとデストロイヤーが視線を外し、コーナーに戻っていく。
その後ろ姿を睨み続ける吾輩。
「ピケ丸選手、コーナーへ」
再びレフェリーに促されて、やっとコーナーに戻る吾輩。
コーナーにはトレーナーのハム星さん。
その顔が今までになく緊張している。
「ピケ、アイツには気をつけろ、マジで気をつけろ、普通じゃねえ」
「何かありましたか?」
「グレートに負けたヤツな」
「アーツですか?」
「そうだ、アーツ。そいつをな、あの野郎、食っちまった!」
「!」
あの血の匂い、気のせいじゃ無かったんだ・・・。
カーン!
ゴングが鳴った。
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