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物語のタネ その八『ツッパリハイスクールRR #15』

俺の名前は北田勝。62歳。職業俳優。
コワモテの演技派として主にヤクザ、クライムものの作品に出演している。
今、俺とその役者仲間たちは、一粒で8時間「高校時代の自分の姿」に戻れる薬を使って「現役のツッパリ高校生」になり、文化祭に向けて「お化け屋敷部」に入部。
突如の活動予算大幅カットの大ピンチを「目隠しお化け屋敷」プランで乗り切ることに。

6月5日。
ついに文化祭の日がやって来た。


文化祭というと秋のイメージもあるが、進学校は6月にやることが多い。
俺の学校もそうだったな、もう45年前の話だが。
こういうところは変わらんもんだ。

天気は快晴。
最高気温は25度の予報。
俺たちの出し物はお化け屋敷だが、とにかくイベント事は天気が良い方がいい。
いい日になりそうだ。

文化祭前日は徹夜で準備、と言いたいところだが、何せ高校生の姿でいられるのは8時間だけなので、4人全員揃って作業とはいかず。
二人ずつ4時間ずらしのシフト勤務でなんとか準備完了。
なんと言っても俺たちのお化け屋敷は「目隠しお化け屋敷」なので、他のクラスや部活の部屋と違い、一切教室の装飾とか要らないから。

まずは部室に寄っていこう。
早番の俺と松林と違って、あとの皆は昨日遅くまで準備していたからまだ誰もいないだろう。

ガラッ

部室のドアを開ける。
と、何か声が。。。
内村くんと村井さんだ。

「あれ、おはよう。早いね」
「あれ、北田くんこそ早いじゃない」
村井さんが顔をあげて応える。
「どうしたの、二人して。何か問題が?」
「ううん、トラブルじゃないんだけど、昨日家に帰ってセリフの練習をしていたらどうしても一つセリフがしっくり来ない所があって。内村くんにLINEして朝イチで直そうってことになったの」
見ると内村くんは、うーん、と台本と睨めっこ状態。
撮影現場での若い監督と女優のやり取りを見ているようだ。
一言のセリフにこだわる、いいものを作るにはその姿勢は欠かせないね。
俺はなんかちょっと嬉しくなった。

「そうなんだ。ところで、どこがしっくり来ないの?」
俺は台本を覗き込む。
内村くんは唸ったまま。
「ここ、ここ」
村内さんが台本のある箇所を指さす。
「洞窟を出る直前に悪霊の親玉が放つ一言なんだけど」
「うん」
「“う〜、許すまじ〜“となっているんだけど、私としては、どうもしっくり来なくて」
「許さないぞって感じとは別の感じがいいってこと?」
「ううん、内容的にはそれでいいのよ。その前、その前。“う〜“じゃないと思うのよね」
「?」
その時

「あ“〜」

内村くんが唸り出した。
どうした⁈

「じゃない?」

内村くんが村内さんの方を見る。
「うん!それだね」
「出来そう?」
「やってみる」
目を閉じる村内さん。
やがて薄っすらと目を開いて

「あ“〜、許すまじ〜」

「うん、バッチリ」
どうやら若き監督と女優は納得したようだ。
よかったよかった。

ガラッ

「おはよう」「おはようっす」「おはよー」
滝内、松林、村井がやって来た。
「おはよう」
内村くん、村井さん、俺、3人が声を揃えて応える。
俺は滝内たちに向けた視線を内村くんの方へ戻す。
「部長、全員集合しました」
にっこり笑う内村くん。
「では、皆さん、我らがお化け屋敷に行きましょう!」

2年C組の教室の半分。
それが俺たちお化け屋敷部に割り当てられたスペース。
正直、広さ的には十分だ。
なんと言ってもウォーキングマシンの上を歩くだけだから。
ちなみに、俺たちの「目隠しお化け屋敷」の仕組みは、こうだ。

お客は入り口でゴーグル型の目隠しを付ける。
隙間なくピッタリ、光が入らない作りになっている。
その後、手を引かれてウォーキングマシンに乗る。
そして、棺の入っているリュックを背負って準備完了だ。
ウォーキングマシンが静かに動き出し、恐怖体験のスタートだ。
しばらくすると地の底から低くいくつもの声が聞こえてくる。
この洞窟に閉じ込められた数々の霊のうめき声だ。
一緒に連れ出してくれと懇願しているのだ。
勿論、この声は村内さん。
うめき声から逃れようと歩を進めると、頬に水滴が!
触るとヌメっとしている。
血だ!
洞窟の天井には、悪霊が食べた人間の死体が貼り付けられているのだ。
血糊(知り合いの特効さんに俺が貰ったもの)のリアル感はバッチリだ。
その血糊を一滴一滴スポイトで垂らすの係は村井。
そうこうすると、突然、地獄の底から響くような声が!
悪霊の親玉の登場だ。
驚いて逃げようとするお客さん。
それに合わせるかのようにウォーキングマシーンのスピードをちょっとUP。
その時お客さんの顔面に、ビチャッと何かが当たる。
それは濡らしたコンニャク。
今も昔もお化け屋敷にコンニャクは欠かせないのだ。
実際はマンガ以外ではお目にかかったことは無いけど。
これ、俺の係。
そして、ギャっと驚いている暇もなく、複数の手がお客の腕や足を掴む。
先ほどの霊たちが再び自分たちも連れて行けと手を伸ばしてきたのだ。
ちなみに、それはマジックハンド。
滝内と松林が両手を使って大熱演だ。
それと同時に、村井のスイッチオンで背負っていたリュックの中の棺桶がブルブルブルと震え出す。
そこへトドメの?村内さんのデスボイス

「あ“〜、許すまじ〜」

文化祭がスタートすると、最初に入ったお客は俺たち2年B組の担任の岡林先生。
その岡林先生の絶叫がハンパなく廊下まで響き渡り、一気に俺たちの「目隠しお化け屋敷」は大人気に!
昼飯を食う間もなく、初日の終了時間16時半までフル回転。

そして、俺たちは校門に向けていつもの様に猛ダッシュ中。
初日大成功!の喜びを内村くんと村井さんと分かち合いたかったのだが、薬が切れちゃうから。

そんな猛ダッシュ中の俺たちに内村くんからLINEが。

明日、朝イチでオバ1GPの審査員が来るとの情報“

おー。



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