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物語のタネ その七『けもパンファイトクラブ #14』

吾輩は猫である。
名前は、もうある。
ピケ丸、である。
ご主人様の名前は森野しずか嬢10歳。
その母のまりあさんとの2人と1匹の生活。
ひょんなことから、動物達の格闘技リーグ「けもパンファイトクラブ“」に参加することになってしまった吾輩。
優勝賞金100万円の「けもパンファイトクラブ新人トーナメント」の第一回戦をなんとか勝利。

「ピケ丸、ピケ丸」

遠くからご主人のしずか嬢の声がする。

「ピケ丸、おはよう」
「おふぁ、おふぁようございます」
体が鉛の様に重く、そしてガチガチだ。
昨夜のトーナメント初戦。
ウルフルの必殺技インディアンカーニバルストンピングを受け続けて、吾輩の体はガタガタである。

「ピケ丸、どうだったの?試合」
そうだった、けもパンファイトクラブは夜に行われるから、10歳のしずか嬢は吾輩が試合から帰ってくるまで起きてはいられないのだ。
「勝ちました」
「やったね!約束通り、今日のお母さんの退院のお祝いになったね!」
「なんとか。とにかく勝てて良かったです」
「あれ?何よ、あんまり嬉しそうじゃないじゃない」
「勝つには勝ったんですけど、勝った気がしないというか、どうやって勝ったのか覚えていないというか・・・」
吾輩は昨夜の試合の模様をしずか嬢に話した。
と言っても最後のところはブル蔵会長から聞いた話だが。
一通り話を聞いたしずか嬢、“うーん“と腕組み。

「要するに、もう一回やろうと思っても出来ないってことよね」
「そうなんです」
とその時、吾輩の腹の下に何かゴワゴワしたものがあることに気づいた。ん?新聞?
「何それ?ピケ丸」
吾輩はその新聞らしきものを広げた。

『けもスポ』

どうやらスポーツ新聞のようである。
その第一面の見出しは、ペケ丸。

『秒殺のブラックストリート貴公子!
試合後インタビューでポツリ「一汗くらいかかせてくれよ」』

悔しいが見出しからかっこいいではないか。
そして、紙面を一枚めくってみると・・・
「あれ?これピケ丸のことじゃない⁈」
としずか嬢。

『これがドラゴントルネードクラッシャーだ!万年秒殺ミケが奇跡の変身!』

との見出しが。
確かに“秒殺“されていましたけど、2回だけですから万年というほどまだキャリア無いですし・・・。
読み進めると、ん⁈ブル蔵会長のコメント⁈

『この技は、実は私が現役時代の最後に編み出しまして。ただあまりに危険な技でしたので封印していたんですよ。ですが、ついにその封印を解き、一子相伝でこの技を託すファイターが現れたということです』

って、会長。
これ、偶然ですよ偶然。
それに、アンタ、何も教えてくれなかったじゃないですか。
最後には“自分で考えろ“って言って。
瞬間的に心の中で数え切れないほどツッコミを入れてしまった。

「これで次の試合も、その技期待されちゃうわね」
記事を読んでしずか嬢。
「どうしましょう・・・」
“うーん“と再び腕を組むしずか嬢。
今度は目を瞑りながら。
「よし!」
しずか嬢が目を開いた。
「私と練習しよう!」
ホントですか!ありがとうございます!

そして5分後。

「ピケ丸。私、ジムでしっかり練習するのが一番だと思うわ」
としずか嬢。
「吾輩もそう思いました・・・」

けもパンの世界に行くと、三毛猫の吾輩も象も人間で言うところの小柄と大柄くらいのサイズの幅に収まるのだが、通常の世界では吾輩はあくまでレギュラーの三毛猫の大きさ。
しずか嬢は10歳とはいえ大きさは人間の10歳。
要はサイズが違いすぎて練習にならず。
最初から分かっていたでは無いかと言えばそれまでなのだが。
しずか嬢が一緒に練習してくれることが嬉しすぎて、その事を忘れていた。

その時、時計を見たしずか嬢、
「いけない!退院のお母さん、迎えに行かないと!」
いそいそと準備を終えると、
「ピケ丸、2回戦も頑張ってね!」
そう言うと、しずか嬢は母まりあさんを迎えに出掛けた。

もう、どうしよう、困った。。。。。
その時、吾輩の頭の中に、ふとハム星さんの言葉が甦ってきた。

“あながち、会長、変なことは言ってないぜ“

そして、ブル蔵会長の言葉も

“あとは自分で考えろ!“

考えてみると、偶然とは言え、会長が言っていたイメージ通りの技が誕生したことは事実なのだ。
そして、その技を繰り出したのが吾輩自身であることも。
そう言えば、かのニュートンは偶然リンゴが木から落ちるのを見て万有引力を発見した。
「偶然は神様の贈り物」なんて言ってた人がいたよな。
そして、この偶然を必然に変えられるかどうかは吾輩次第なのだ!

僅かながらブル蔵会長に対して感謝の気持ちが湧いて来た、気がする。
そうだ、練習だ。
練習あるのみ。
次の試合は明後日。
時間は無い。
だが、なんとしても完成させてみせる。
鉛のようだった体に徐々にエネルギーが満ちてくる。
まずは走ってくるか。
吾輩はロードワークをしに外に出た。
むむ、朝日が眩しい。

よし、やるか!




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