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神保町古書街と喫茶店

本の街・神保町の中心的存在の三省堂書店が来年3月をもって営業を終了し建て替え工事に入るとのこと。新店は2025~6年を目途に竣工予定とか。建物の老朽化は如何ともしがたいけれど、学生時代から何度通ったかわからないあの佇まいが失われてしまうのは寂しくて仕方がない。

神田神保町。神田といえば古書街、といつの頃からか刷り込まれていた。上京したばかりの頃に知り合った方々から「文学部?じゃあ神田の古本屋街には行ってみた?」等と言われることが何度かあり、ある日時間が取れたので行ってみることにした。駅を降りてその周辺を歩く。歩けども歩けども古本屋ひとつ見当たらず、諦めてJRの駅に戻った。JRという時点で間違いである。神田と聞いて素直にJR神田駅で下車したのだ。

「神田の古本屋街」の最寄りは「神田」駅ではなく「神保町」駅であることを後に知って非常に恥ずかしい思いをしたのだが、上京間もなく電車の乗り継ぎも覚束ない頃、ましてやインターネットもない時代のことなので笑って済まさせてもらおう。

日を改めて神保町へ。どこをどう歩いていいのやら分からずに当てずっぽうに歩いた気がする。地下鉄の長い階段を上って靖国通りに出る。三省堂書店に辿り着くまでにいくつもの古書店があり、看板を見る度に一々テンションを上げていた。大袈裟だけど「東京に学びに来たんだ」と再認識するように(その割には随分遊び呆けてた気がするが)。

古書店の扉を開けると、古紙の匂いというのだろうか、田舎の親戚の家を思わせる懐かしい空気をまず感じる。例えるなら古い畳や稲わらにインクのケミカルな香りが混じり合ったようなイメージ。そしてどこか凛とした空気。奥には店主が静かに座っていて、本を探しに訪れた客も黙って背表紙とにらめっこしている。まるで宝探しをするかのように。

特にお気に入りの古書店は昔も今も変わらず「悠久堂書店」さん。取り扱うジャンルが個性的で、1階には美術書、画集、書道関連の書籍、そして豊富な料理書。2階には山岳と動植物に関する本が所狭しと並んでいて、まさに宝の山。若い頃は自然科学や植物の方に関心が強かったが、今はもっぱら料理書のエリアで長居をしてしまう。各国のレシピ本や食材辞典、昭和時代に活躍された料理研究家の著書などかなりのボリューム。少し前に買ったのが約50年前に出版された、飯田深雪先生のチーズ料理のレシピ本。今ほど多種多様のチーズがまだ日本に入っていていない頃のもので、クリームチーズやカッテージチーズを使ったレシピがほとんど。カマンベールチーズも載っていたけれど、当時はかなり高級品だったと思われる。家庭料理というよりは富裕層のおもてなし料理に近いものに思えた。貴重な資料である。ちなみにネットで数千~1万円弱の価格が付いているのを見たことがあるが、800円で購入している。状態もとても良く、経年劣化以外の汚れもない美品。

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チーズメインの料理というよりは、素材と合わせて使うレシピが多め。参考にして作るというよりは、写真を眺めているだけで幸せを感じる。

少し間が空いて行かない時期があると、迷っていた本が売れてしまっていないか、どんな本が新たに入荷しているのか気になってしまう、30年間変わらず好きな古書店である。

書泉グランデも愛すべき場所。こちらも長年通っているけれど、とにかくディープでありマニアック。フロアごとに趣味の専門書が揃っていて、私は1階で文庫や新書、サブカル単行本などを見る他は4階で地理と歴史に関する資料を探したりすることが多い。同じフロアには占いやら精神世界の本も並んでいて異世界感すらある。こちらの建物も決して新しくはないのでいつかは建て替えられるのかも知れないけれど、今の佇まいのままで在ってほしいと勝手ながら思っている。

神保町といえば昭和の頃から続く喫茶店が今も点在している。昨今のレトロ喫茶ブームもあって若者が行列を作っていたりする。ちなみにタイトル写真は、いつも行列が出来ている「ラドリオ」さんのナポリタン。昨秋にたまたま用事があり神保町に来ていたところ、ちょうど開店の少し前だったので行ってみた。既に2、3組並んでいた。せっかちな私は行列を見ると回避しがちだが、これならすぐに入れそうだったので後に続き、開店と同時に入店できた。席に案内されてナポリタンを注文しているうちにあれよあれよと満席になる。無用の長居はせずに懐かしい味のナポリタンを楽しんだ。

他にはちょうど斜向かいにある「ミロンガ・ヌオーバ」さん、すぐ近くの「神田伯剌西爾(ブラジル)」さん、神保町交差点を渡った先の「トロワバグ」さんなど人気の喫茶店が多い。買った本を読みながらコーヒーを飲むのが、今の自分にはとても贅沢で幸せな時間なのは間違いない。

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