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2つの視点から観るトランジション

バレーボールの競技性というものを眺めてみると、その一つにネットを挟んでボールをヴォレーし合うというものがある。当然ながらプレーヤーはネットを越境することはできず、唯一ネットを越境することが許されているのがボールである。そして、ボールがプレーヤーによってヴォレーされ、幾度もネットを越境する。

プレーヤーは強烈なヴォレー(オフェンス)によって得点を獲得しようとし、またその強烈なヴォレーを自コートに落とすまいとヴォレー(ディフェンス)し、得点されることを防ごうとする。この「攻防(ラリー)」がバレーボール最大の魅力とも言える。

さて、唐突にバレーボールの魅力について冒頭から熱く語ってしまったわけではあるが、このバレーボール最大の魅力である攻防の解像度を上げていくためにその狭間にある『モノ』の本質を観察していこうというのが、本記事の趣旨である。

オフェンスとディフェンスの狭間にあるトランジション(移り変わり)

バレーボールに焦点を当てる前に少し視野を広げて球技スポーツの攻防について考えていきたい。

多くの球技において攻防は存在するものであるが、球技によってその攻防の在り方は下記3パターンに分けられると考えている。以下の通りである。

1、攻防のトランジションがルールによって明確に規定されている(野球・アメリカンフットボール)
2、攻防のトランジションがカオス(無秩序)的である(バスケ・サッカー)
3、攻守のトランジションがコスモス(秩序)的でもあり、カオス的でもある(バレーボール・テニス)

さて、それではそれぞれを具体的に説明していこう。

まずは、「1、」について具体例を用いて説明していく。
例えば野球。ゲームの始まる前に先攻と後攻が決められる。攻撃するときは攻撃に徹し、守備するときは徹底的に守備に徹する。これが野球のルールである。攻守の移り変わりは、「スリーアウト・チェンジ!」の一言である。誰がどう見てもどこで攻防の移り変わりが起きているのかは明白だ。


では次に「2、」について具体例を用いて説明していく。
例えばサッカー。バレーボールと比較して考えると分かりやすいかもしれない。サッカーにはネットが存在しない。つまり、バレーボールのように相手コートと自コートを分断するものは何もない。そのため、バレーボールのようにボールがどちらのコート側に位置しているか(ボールを支配できる状態にあるか)という視点からオフェンスとディフェンスを明確に判断するということが難しい。

また、オフェンスなのかディフェンスなのかを判断するには、どちらのチームがボールを所持している(ポゼッション)か否かという部分を観ることが懸命だろう。ボールを所持しているほうがオフェンスで、所持していないほうがディフェンスと考える方法である。しかし、どちらのチームもボールを所持していないような状況も当然存在する。この状況においては、もはやオフェンスなのかディフェンスなのかを判断することすら難しそうである。

さらに、ボールを所持し自チームのプレーヤーにパスを出したが、間に相手チームのプレーヤーが入ってきてボールカットされてしまったという状況もゲーム中には多分に起こり得る。予期せず瞬時にオフェンスとディフェンスは移り変わることも日常茶飯事だ。

このように、ボールに視点をおいてサッカーのオフェンスとディフェンスの移り変わりを眺めていくと、極めてカオス(混沌状態)的だと言えるのではないだろうか。


最後に「3、」についてバレーボールを具体例にとって考えよう。
オフェンスとディフェンスの移り変わりについて、上記具体例の野球とサッカーのどちらの球技に近しいかといえば後者と言えるだろう。

バレーボールには当然ながら、野球のように明確に先攻と後攻という明確な移り変わりはないからだ。ではサッカーと同じかと言えばそうとは言えない。サッカーとバレーボールには決定的な違いがある。それは先述した通り、ネットの存在があるということである。ネットの存在によってサッカーのように相手チームのプレーヤーと交錯するということがあり得ない。ネットを越境することができるのはボールだけである。

バレーボールに関して言うと、自コート上にボールが浮遊している間はボールを支配することができるが、ボールがネットを越境してしまえば、ボールを支配することは超能力でも使わない限りは不可能である。

このように、ボールに視点をおいてオフェンスとディフェンスの移り変わりを観ていくと誰がみても明確なトランジションを定義することができそうである。ネットのないサッカーよりは攻防のトランジションはシンプルになりそうだと予測ができる。

しかし、攻防のトランジションを本質的に理解しようとするのであればボールの動きに注目するだけでは不十分だと言えるかもしれない。なぜなら攻防のトランジションの本質を本気でつかもうとするならば攻防(オフェンスとディフェンス)とは何か?ということから定義をしなければならないからだ。

「オフェンスかディフェンスか?」の問いに対しては、実際のプレーの名称(アタックやレシーブ)から判断すれば容易に答えられるような気もする。しかし、もう少し突き詰めて考えてみるとプレーの名称はあくまで客観的にバレーボールの説明や議論をするために付けられたものでしかない。誤解を恐れずに言うのであれば、プレーを現象面から見て名付けたものに過ぎないのだ。

「オフェンスかディフェンスか?」の問いに本質的に答えようとするのであれば、その答えを持っているのはそのプレーを遂行したプレーヤーのみぞ知るというのが正解である。つまり、オフェンスなのかディフェンスなのかはプレーヤーの意識なのである。

具体例をあげて考えてみよう。例えばこうだ。

周囲からはスパイクを打っているように見えても(オフェンスのように見えても)プレーヤーの意識ではオフェンスではない(プレーヤー本人はただ無難に相手コートに返球しているだけ)という状況である。

他にも実際のゲームで起こり得る様々な状況を思い描いてみてほしい。プレーの名称に惑わされることなく、プレーヤーの意識・意思・意図を観ようとしてみれば、どのプレーがオフェンスで、どのプレーがディフェンスなのか。また攻防のトランジションはどこで起こっているのかを客観的に定義するのは極めて難しいと思う。

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