見出し画像

犬に噛まれる

私ではない。

知人の話。

そろそろ懐いてきたかなと

心を許したご近所のわんちゃんに

あっさり手を噛まれたらしい。

手の痛み以上に、心が痛いと。

ちょっと分かる。


かのムツゴロウさんは、

ゴールデンタイムのムツゴロウ王国で

心配になるぐらい噛まれていた。

たとえ噛まれても抵抗せず身を委ねることで、

自分は危険ではない安全であると分からせると。

オオカミ犬や猛獣に対しても躊躇なく挑み、

しょっちゅう甘噛みされていた。

しかしライオンは例外だった。

現地スタッフの青ざめた顔が記憶に深い。


大好きな「風の谷のナウシカ」でも、

ナウシカがテトにガブっと噛まれるシーンがある。

でも全く抵抗しないナウシカを見て

テトは心を許した。

感動的で非常に印象深い大好きな場面だが、

あの場面を見るたびにムツゴロウさんが過ぎる。


人間が思ってるほど、動物は単純でない。

ましてや知能の高い犬は洞察力も忠誠心も高い。

実家を新築した時、

祖父が「番犬に」と贈ってくれた初代の愛犬

柴犬のアリス。


アリスはとても賢い犬だった。

時代は昭和、

アリスは基本玄関側の犬小屋で暮らした。

ただし、庭で放し飼いにする時間も多く、

土日などは逃げ出さないようシャッターをして

庭で走り回って一緒に遊んだ。

誰かがやってくると

間髪いれず吠えて知らせてくれたし、

ご近所さんだと分かると吠えるのを止めたりと、

とてもお利口さんだった。


庭にアリスを放して遊んでいる時だった。

知らない保険屋のおばはんがやってきた。

不審者をキャッチしたアリスは、

すぐさま門扉に威嚇に走った。


庭先にはちょうど母もいて、

「用事ないし結構ですー」と応対したが、

強引な保険屋のおばさんは、

「お話だけでもー」と入ってこようとした。

「いやいや、その犬噛みますから!」

と制止にかけよる母。

「私犬好きなんで大丈夫ですー」

と門扉の隙間から手を差し出した次の瞬間。

ガブっ

母の制止は間に合わず、

保険屋のおばはんはあっさり手を噛まれた。


「大変!!大丈夫ですか!?」

と駆け寄る母。

「大丈夫、大丈夫、私犬好きなんで…」

無事を主張する保険屋のおばはん。

威嚇を止めないアリス。

もう玄関先はてんやわんや。グダグダ。

申し訳なく思った母は資料を受け取っていたが、あれは訪問営業の裏技だったのだろうか。深い怪我でなかったから良かったが、噛むーゆうてるのに自ら噛まれに手を出し、全く迷惑な話だ。こんな時にも保険があれば安心ですとか、とセールスするつもりだったのか。いやはや。


犬は話せないので威嚇する。

威嚇されいるうちは近寄ってはならない。


懐いてきたかな、と思っていても

油断はできない。

信頼関係の構築は、
人も犬も一筋縄ではいかないものである。


一線を越える時には、

痛みを伴う覚悟も必要だ。

ワン。


【おまけ】

ヘッダーの写真は、大学生の時(工芸・陶芸専攻)、余った粘土で二代目の愛犬「シェットランドシープドッグ」のレモンちゃんを作ったもの。

アリス時代には叶えられなかった完全室内飼いで、本人も「犬っぽい人」として生きた賢犬。喧嘩が始まったら、そっと二階へあがり階段の隙間から様子を見て、長引くなと思ったら先に布団で寝ていたり。自転車のカゴに乗って風を浴びながら散歩を楽しむような粋なお犬様だった。私は本気でレモンちゃんとは以心伝心できていたと信じてやまない。

画像1








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?