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時計の契約:第3章14時

14時:鏡と交わる運命

俺は深い疑問と戸惑いを抱えながら、自分が世界線を超えているという事実に向き合っていた。俺の心は複雑な思いで揺れ動き、違う世界線での自分との間にある奇妙な繋がりに気づいていく。俺の記憶が曖昧だったことも、体中がだるくなっていくことも、全部全部世界線を超えてしまったことのせいなのか。こっちの世界の”俺”と記憶が重なっていたのか。
あれほど憎いと感じた悪魔だが、よく見ればとても悲しそうな目をしていた。気付かなかったけど悪魔はとても痩せていた。
「君はどっちの世界に住む悪魔なんだ」悪魔はにやっと不気味な笑みで答える。
「そ、らと、、一緒、、のせか、、いぃ」俺と悪魔は一緒に入れ替わったということなのか。もう一人の俺は無事なのか、向こうの世界は今どうなっているのか、いろんな疑問が湧き出てきた。
 
突然、時の本がまばゆく光った。鏡の中には俺の姿が映っていることに気付いた。俺だけど俺じゃないのは、鏡のように同じ動きになっていないことで気がついた。
「兄さん、おじいちゃん」
時翔ときとの声がした。俺とじいちゃんが時翔ときとを見つめる。時翔の眉を細めてこちらを泣きそうに見ている顔を見て俺は飲み込めた。時翔、もうわかったんだね。そして、向こうの世界もいわば”俺”だ。自分がどういう状況なのかも分かっているんだろう、なぁそうだろう”俺”よ。互いに今ある事実を静かに受け入れた。

体がだるくなる中、どうすれば元の世界に戻れるのかを話し合う。不思議だけど、違う世界線であってもやっぱり俺は俺で、思考もしゃべる速度も息遣いも全く同じで笑いあってしまった。名前が違うだけであとは全部一緒。鏡には映らないけど向こうには黒い悪魔とは対照的な白い悪魔がいるそうだ。俺らの記憶では、ある時から悪魔たちは本に宿ったみたいだ。だが、本と悪魔は意思疎通はできないようだった。なぜ宿ることになったか記憶もないようでただ分かっている事実は、一刻も早く俺と遙(はる)の世界線を元に戻さなければ、命がなくなるということだけだ。俺たちは自らの運命に立ち向かう覚悟を決める時がきたんだ。


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