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原典を読みながら環境・農業問題について考えてみる

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聖書や日本書紀、平家物語などを読みながら、「日本」について外国人に説明するにはどうしたらいいかとか、農村部の論理と都会人の論理がどう違うかと言ったことについてのヒントを考えていま…
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#マルセルモース

モノを人にあげると極楽往生出来ると言う思想の源流

モノを人にあげると極楽往生出来ると言う思想の源流

マルセル・モースの贈与論では、古典ヒンドゥー法についても触れています。

かなり古い時代の叙事詩に登場するような「贈与」についての考え方が、現代でも生き残っている事を述べています。

物を人に与えれば、そのよい報いがこの世であれ、あの世であれ生まれる事になる。この世ではそれと同じ物を自動的に贈り主にもたらす。贈り物は失われる事なく再生する。あの世では贈り主が送った物を再び見出すが、それは増えている

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罪と罰の起源

罪と罰の起源

「最初の保持者は自分の所有物を示し、厳かにそれを手渡し、こうして受領者を買う」

マルセル・モース「贈与論」によると、代金を払う前に商品を手にしている時、買い手は売り手に「買われている」のだそうです。

非常に奇妙に感じる事ですが、こう考える事で万引きが犯罪となる事が説明出来ます。

つまり、品物を手にして代金を払うまでの間、買い手は売り手に買われている、その状態を解消するには、買い手は売り手に代

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売買の「売」と「買」の間に起きている事

売買の「売」と「買」の間に起きている事

お店に行って、品物を手にしてお金を払う。

日々普通にしている事ですね。

では、品物を手にした時からお金を払う時までの間に起きている事はなんでしょうか?

いや、スーパーマーケットやコンビニでレジカゴに入れただけで会計が済ませていない品物は、元の棚に戻せば、自分が買った事にはなっていないはず・・・

確かにその通りです。

では、もっと「時」を限定してみましょう。

品物がレジに持ちこまれ、登録

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「お返しがない」と怒る人がいると言う事

「お返しがない」と怒る人がいると言う事

マルセル・モースの贈与論には、次のような記述が出てきます。

これらの交換はかなり頻繁に行われるが、地域の集団や家族は別の機会に道具などを自給しているために、贈り物は、発達した社会の取引や交換と同じ目的を果たすものではない。

その目的は何よりも精神的なものであり、交換した二人の間に親しみの情をもたらすことになる。贈り物が互いの親近感を引き起こさなければ、すべてがうまく運ばなくなる。

これは、農

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「貰う事も義務」と言う文化の存在

「あなた方もこのように働いて弱い者を助けるように、また、主イエス御自身が『受けるよりは与える方が幸いである』と言われた言葉を思い出すようにと、私はいつも身をもって示してきました。」

新約聖書の使徒言行録にあるパウロの言葉です。

受ける=つまり、人から何かを貰う、またはして貰う、
与える=その逆に、人に何かをあげる、またはしてあげる。

これはどちらが「良い事」なのでしょうか。

現代社会では、

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「贈与」経済の限界・・・文明化

「ダヤク族(ボルネオ)は、よそで食事に居合わせたり、食事の準備をしているところを見たりした時は、必ずその食事に加わらなければならないと言う義務に基づいた法と道徳の全体系を発展させさえした」

(マルセル・モース「贈与論」ちくま学芸文庫)

この件については、同書の注釈の中で、制度の比較研究のために「正しく確認すること」が難しいとしています。

例えば、「ボルネオのブルネイ国における強制的取引と言う

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モノがやり取りされる時、モノの「霊」もやり取りされていると言う思想は現代社会でも生きている

「ハウは生まれたところ、森やクランの聖地、あるいはその所有者のところに帰りたがるのである。タオンガないしハウはそれ自体一種の個体であり、一連の保有者が祝宴、祝祭、贈与によって、同等あるいはそれ以上の価値の財産、タオンガ、所有物、労働、交易をお返ししない限り、彼らにつきまとう。

そうしたお返しによって、その贈与者は、最後の受贈者になる最初の贈与者に対して権威と力を持つようになる」

(マルセル・モ

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モノの「霊」が持つ魔力による復讐~モースの贈与論とシェークスピア「アテネのタイモン」

「タオンガや純粋に個人的な所持品すべては霊的な力としてのハウを持っている」

マルセル・モースの「贈与論」にはこのような記述が出てきます。

タオンガと言うのは、マオリ族の人たちがやり取りする品物の事らしいですが、「モノ」の交換と言うのは、実は「モノ」が持っている「霊」のやり取りにつながっていると言うのは、非常に示唆に富む観点だと思います。

「あなたは私に一つのタオンガを贈る。私はそれを第三者に

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都会の人と農村部の人の間のトラブルと「霊」のお返し

「物の霊、特に森の霊や森の獲物である『ハウ』について、エルスドン・ベストのマオリ族の優れたインフォーマント(情報提供者)」の一人、タマティ・ラナイピリが、全く偶然に、何の先入観もなしに、この問題を解く鍵を我々に与えている。

私は『ハウについてお話します。ハウは吹いている風ではありません。全く、そのようなものではないのです。

仮にあなたがある品物を(タオンガ)を所有していて、それを私にくれたとし

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マルセル・モース「贈与論」を読みながら考える都会人の半農生活

「多くの交易が遠くまで、島から島へ、港から港へ行われた。昔から品物の伝播に限らず、交換の方法も遠くにつたえられた。」

「我々は『オロワは外からの財産』、『トンガは元々の財産』としたターナーの訳を無視する事が出来る。
しかし、全く利点がないわけでもない。
と言うのも『トンガ』と呼ばれるある種の財産は『オロワ』と呼ばれる財産よりもいっそう土地、クラン、家族、人に結びついていることを示しているからであ

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