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吟遊詩人おじさんリッチー・ブラックモアで私は変わってしまった

リッチー・ブラックモアと言ったら、あのDeep Purpleのギタリストで、エレキを速弾きしてぶっ壊している人というイメージの人がほとんどだと思う。

けれど私の人生に現れたときには、アコギを手にした中世時代ルックのおじさんだった。

Deep Purple後に結成した、Blackmore's Nightというユニットでの姿だ。

衝撃的な出会い

小学生のときにBlackmore's Nightを知って、私の嗜好は完全に変わってしまった。
フォークロックに狂い、アコギのグリス音に悶絶し、「横文字の地名って、なんでこんなにカッコイイんだろう…」と世界史のテストで満点を連発する女子学生になった。

父が運転する車の中で、ある日流れてきたのがBlackmore's Nightのファーストアルバムだった。

父はプログレ育ちのプログレフリークで、幼少期から家ではCamelの『Snow Goose』や、King Crimsonの『Comfortably Numb』などがよく流れていた。その日も、たぶん人から「リッチーが新しいユニット作ったんだってさ〜」とCDをもらって、何気なくかけたんだと思う。

哀愁と情熱が綯い交ぜになったアコギの音。郷愁を誘うメロディ。次いで、外国人の女性の歌が流れてきた。海外の女性としては、重苦しすぎないし、かと言って甲高くもない。言ってしまうと、日本で育った私にもとっつきやすい歌声だった。それが『Greensleeves』だった。

小学生の頃は英語の曲どころか、日本の曲もまだ『意思』を持って聴いたことなんてなかった。なんとなく、友だちが話してるから、テレビで聞くから、知ってるし歌えるだけだった。

けれど、この『Greensleeves』を聴いた瞬間、父に「この曲なに?!」とかぶりついていた。
ファーストアルバムを父からぶんどり、リビングにあったCDプレイヤーで延々かけまくり、英単語もわからないのにそらで歌えるようになった。

Blackmore's Nightは、リッチーがRAINBOW後、パートナーだったキャンディス・ナイトをボーカルに迎えて立ち上げたユニットだ。

読み込んだファーストアルバムのライナーノーツには、『リッチーは「吟遊詩人になりたい」という思いを強くし、中世の音楽や民謡からインスパイアを受けた楽曲とともに活動している』……と書かれていた。

その通り楽曲は、民族音楽的なもの、中世時代のフレーズや展開を感じるもの、他には『Greensleeves』のように民謡をアレンジしたものなどが多い。

音だけじゃなく、ジャケットや歌詞カードに写るリッチーとキャンディスは、本当に中世時代に佇んでいるかのような衣装を纏っている。

リッチーのブーツすごいな

暇があればゲームをし(当時はファイアーエムブレム聖戦の系譜に夢中だった)、ファンタジー文学を読んでいた私には衝撃だった。

確かにゲームやファンタジーは好きだけれど、あくまで『子ども向け』という感覚は、幼心に感じていた。

でも、大人に向けたもので、こんな世界のがあるんだ!
それにアコギの音って、胸がギューッとなってちょうかっこいい!
私が聴きたかったのって、まさにこんな音楽だ!

そんな思いで、急激にどっぷりと浸かっていった。

『Greensleeves』も思い出深いけれど、RAINBOW時代の『Self Portrait』のセルフカバーも好きだ。

歌詞は陰鬱だけれど、イントロと間奏のアコギがたまらないのだ。

高校のときにドイツへ旅行する機会があって、当時発売されたばかりの『Fires At Midnight』をMDに録音して持っていった思い出もある。メルヘン街道の街並みを眺めながら聴くのは、本当に「目にしている景色をそのまま音で聞いている…」と思うくらいばっちりピッタリで、今でも思い出すと胸がほかほかしてくる。

(ところでこの曲の再生数が多いのは、やっぱり間奏でリッチーのエレキフレーズがあるからなんだろうか)

こうして出逢ったBlackmore's Nightは、洋楽への扉を開いてくれた。

リッチーの音に慣れ親しんでから、アコギ&中世っぽい曲は手当たり次第聴いたし(ジョン・レンボーンの『Lady And The Unicorn』も思い出深い)、フォークロック繋がりでKorpiklaaniにもたどり着いた。

何より、周りに流されない、自分の「好き!!」っていう感覚はこれなんだ! と教えてくれたのがBlackmore's Nightだったと思う。

魔術的でコアだし、おそらく大衆向けではないだろうし、知っている人が少なくても、自分が本当に好きなものに触れているときの幸福を知ることができた。
あのとき父が車で流さなかったら、私はこの感覚を知らずに生きていたかもしれない。

なんでこんなことを考えたというと、今年THE ALFEE3人のトークをめちゃくちゃ聞いたからだ。

3人の会話を聞いてると、30年前のトークでも、2週間前のトークでも、自分たちの音楽体験を毎回同じ熱量で話している。

話題が通じて、盛り上がれるメンバーが近くにいるから余計なのかもしれないが、The Beatles、Simon & Garfunkel、Led Zeppelinなどとの
出逢い、体験、そして感じた想いをすごく大事にしているのが感じられるのだ。

今までミュージシャンの発言を追いかけたことはあまりなかったし、ちょっと『影響を受けたミュージシャン』という話題が出ても、インタビューの紙面でチラッと出る程度の印象だった。
対して、こんなに長期間に渡って、当時受けた衝撃を何度も詳細に話す姿が新鮮だった。
同時に、芯があってブレないなぁとも感じた。

そうか。
やっぱり昔惹かれた音って、自分を形作っているのかもしれない。

そう思って振り返ったら、どう考えても自分の後ろにいるのは、吟遊詩人の風貌をしたリッチー・ブラックモアだった…。

それは、アロマテラピーのレッスンで『ベルガモットやフランキンセンスは太陽を象徴し、ペパーミントやフェンネルは水星すなわちコミュニケーションや学術を表す』とか、『古代エジプトの町では、早朝にフランキンセンス、日中にミルラ、夜にキフィを焚いて過ごしていた』なんて内容がすらすら頭に入ってくるわけだよ。

だって私はBlackmore's Nightの世界で生きているんだからなぁ、と妙に納得してしまった。

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