民佐穂

美術家の民佐穂です。木材とアクリル絵具で絵画制作を行っています。 www.sahomi…

民佐穂

美術家の民佐穂です。木材とアクリル絵具で絵画制作を行っています。 www.sahomin.com

最近の記事

目盛り/メモリ/memo

ある場所を思い出そうとするとき、どんなふうに思い出しているだろう。 場所の記憶は、ひとつの色かたちに集約された「もの」よりずっと漠然としている。地面や空にはっきりと境目がないように。いつの時刻だったか、どこの地名か、ぼんやりした記憶を手がかりに辿る。場所と人々のあいだに引っかかる小さな目盛り。 ある町にはシンボルがある。城跡、タワー、時計台、記念碑。町の記憶を保つのは、大切に保存されてきたシンボルという目盛り。そこにあったシンボルが失われると、どんな姿でどんな場所にあったの

    • Finders Calendars

      " 私たちの身の回りは、すでにあらゆるものに名前がつけられている。 食品や植物から土地や月日まで。それでも私たちはあらかじめ名付けられたものだけを見ているのではなく、むしろ名付けられる前の情報に遭遇していることのほうが多い。それは皮膚が記憶する食料の熱度や水の温度、毛穴が読み取る冬の空気や木々の香りであったりする。環境が知らせる情報は季節や安らぎだけではなく、ときに危険や恐怖までも含まれている。色の名前がついた絵具材も、空気に触れさせ画面に定着すると一旦名前を失い姿を変える。

      • 道具と材料の話

        木材 6月の展示では、今年の冬から春に故郷遠野の産直から仕入れた木材を多く使った。産直なので木材の値札にも加工者の名前が記名されている。恐縮だがお名前を出させていただくと、仕入れた木材加工者はすべて菊池光典さんという方で、おそらく木工職人の方と思われる。まな板より大きく長いものから、手のひらにおさまる小さな木口まで豊富な種類が販売されていた。 クリ・ヒノキ・トチ・クルミ・キハダ・ミズキ、さまざまな種類の落葉高木が木目にそってちょうどいい大きさとかたちに加工され安価で販売さ

        • 川のほとりに

          古本屋で見つけた1冊の本の話。 ❝ ぼくらの泳ぐ北上川の深みは、町はずれの橋の下にあった。橋は対岸の遠野街道の基点になっていて、その先の遠野の峠を越えれば海が見えて、眼下に釜石の港町があることをぼくは知っていた。岩手県には細い篠ならばあるが、竹は生えていない。それなのに、竹槍で戦う話が子供たちのあいだにも伝わっていた。そういうある日、ひときわ暑いのに、ぼくらに泳ぐことは許されなかった。正午に重大放送があるという。隣家に集まって、ラジオを聞かねばならなかった。❞    p18

        目盛り/メモリ/memo

          深山苧環

          絵画の名前 絵画の名前は1番最後に決める。下絵や設計図はつくらないため、名前をつけるとなると億劫だ。梱包するギリギリまで眺めたのちに、決めると決意したら意外とすぐ決まるとわかっているのだけど。 過去には日記のようにナンバーだけふったものも多かったが、テーマをもって取り掛かったときには、不思議と紐づけられたように名前がちゃんと見つかるようだ。 水路をひくように伸ばした線と落とした点のある画面を眺めていると、頭を垂れた釣り鐘型の植物が浮かんだ。むかし母に教わった記憶にあたる

          深山苧環

          北の合流点

          盛岡の中心に流れる3つの川 岩手県の県庁所在地である盛岡には、北上高地と奥羽山脈から流れる北上川・雫石川・中津川の3つの川が流れている。 樋口忠彦氏著「景観の構造」には、盛岡の都市空間を分類すると、三方を山にかこまれ南にのみひらかれた「蔵風得水型空間」の系譜をひいたものと記されている。日本最古の庭園書「作庭記」の「四神相応」という理想の地相にも近い系列の空間であるという。 「景観の構造 ランドスケープとしての日本の空間」樋口忠彦氏著 技報堂 少々固い分析をすると、さまざ

          北の合流点

          点と点 点から点

          新型コロナウイルスの影響で、東京近郊に住む私は展示会場の盛岡には足を運ばず絵画作品のみを配送した。オンラインで確認しながらの搬入設営と入場予約制をとってギャラリーを開けていただいている。 トンネルの真っただ中にいたような4-5月は、しばらく展示はむずかしいと思っていた。さいわい6月を過ぎると移動規制も緩まり始め、まだ安心はできないものの、灯りをともしてトンネルをゆっくり歩けるようになってきた。 ついさっきまで自宅の制作部屋にあった絵画は、箱に包まれ、トラックで運ばれ、別な

          点と点 点から点

          点景 ―むかしと未来の川のほとりに

          展示タイトルに決めた「点景」について。 「点」を制作にどのような意識で扱ったか、何点かに分けてまとめてみた。 ①地図上の地点 外部機関が測量した地図から取得する点 「点A(出発地)から点B(目的地)」までの経路 / 距離 普段よく使う現在位置から目的地を確認するための地図 ・Google Map 地形を知りたいときに使う地図 ・地理院地図 ・スーパー地形アプリ 制作場所(出発地点)… 西に連なる多摩山塊が見える武蔵野扇状地の扇央部展示場所(目的地点)… Cyg art

          点景 ―むかしと未来の川のほとりに