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Finders Calendars


" 私たちの身の回りは、すでにあらゆるものに名前がつけられている。
食品や植物から土地や月日まで。それでも私たちはあらかじめ名付けられたものだけを見ているのではなく、むしろ名付けられる前の情報に遭遇していることのほうが多い。それは皮膚が記憶する食料の熱度や水の温度、毛穴が読み取る冬の空気や木々の香りであったりする。環境が知らせる情報は季節や安らぎだけではなく、ときに危険や恐怖までも含まれている。色の名前がついた絵具材も、空気に触れさせ画面に定着すると一旦名前を失い姿を変える。その当たり前の現象は名づけの条件をすり抜け、身体と環境の関係のように、扱うものと材料のの間にも都度新しい条件が生まれている。"
民佐穂





2021年冬の札幌での展覧会は、再びリモートの搬入で実施されることも見越した準備が必要だった。そのため2020年秋ごろからの制作は14cm~30cmに満たない木製パネルを繰り返し使うことになった。運送と設営が簡易になることが優先されたことは確かだが、そのおかげで小さなサイズの絵画(本で例えるとハードカバーサイズ)が自分の身体に適していてると改めて気づいた。パネル+アクリル絵具+プラスチックヘラ。この道具3点を使った枠組みで作品をつくっていくことは変わらずに。

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毎日かならず日記をつけている。その日の天気や食べ物、ニュースや夢、会った人物。どんな出来事でもいい。過ぎ去っていく時間をどんなかたちでもいいから記録することが日課になっていた。それは昔からの短い記憶力の克服方法でもあった。さらに昨年の春から世の中が一変した生活状況にあっては、時を刻み記録することは生身のからだにリズムをもたらす希望的方法でもあった。

2020年秋~冬の制作は、日記をつけるように取り掛かっていた。展覧会に出品するものが揃ったころには、"暦をめくり続けた" ような実感があった。決まった言葉を持たない、テーマもない、地名もない、そうして続けた制作は、あたらしい"暦を見つける"ような時間だった。"暦"もまた区切られた"時"だ。言葉のように過去から現在を生き、かたちや場所を変え、やがて落ち葉のように去り、またあたらしい暦が刻まれる。







絵が完成すると名前をつけなければならない。絵のひとつひとつを眺めると、そこにまたあるイメージを持った言葉を名付けようとする。自分が見たい風景や地名や季節や気温、なにかを彷彿とさせるような。
名付けようとしてしまう"言葉”と、目の前にある"絵でしかない絵"のズレは何だろう。ひとつひとつの絵に固定した何かが表象されているのではないく、ただ "めくり続けたカレンダーの束"を目の前にしているだけのようでもあった。

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作品タイトルは二十四節気の黄道座標の度数から引っ張って名付けた。
「数字」は意味から距離を置いた目印になる。展覧会タイトルの ” Finders Calendars " の ” Finders "は、見つける人・拾得者・発見者という意味がある。発見者や拾得者という言葉には、しっくりきた。

「Finders Keepers」は“Finders are keepers.”の略で、“Losers Weepers”とも表現できる。「落とし物は拾い得」とは、「拾ったものは自分のものにすることができるが、失くしたら泣きをみる」という意味。
 また、このフレーズは小説や映画のタイトルなどにもたびたび使われている。映画『キャリー』や『スタンド・バイ・ミー』、『グリーンマイル』などの有名な作家スティーブン・キングが2015年に出版した小説のタイトルも『Finders Keepers』だ。
【文/寺本亜紀】
https://juken.oricon.co.jp/rank_english/news/2066198/?




画像1

「225°」 210×148mm    acrylic on wood     2020


画像2

「135°」 210×148mm    acrylic on wood     2020







個展「Finders Calendars」についてのテキストを執筆いただきました。
この展覧会の場所をつないでくださった松山聖央 氏より。


「Finders Calendars」
Saho Min 
2021年1月9日(土)~ 2021年1月17日(日)
開催時間:11:00~18:00
※休廊日:火曜
※最終日は17:00まで

開催場所
ギャラリー創(SOU)
札幌市中央区南9条西6丁目1-36U-ステージ
主催者 GALLERY創
http://sou.agson.jp



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