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柿の木

ここ数週間ほとんど眠れていない。
30も半ばを過ぎ、このままこの仕事をしていて良いのか、
転職するにもギリギリの年齢だ。
そうすると結婚はもっと先になるのか?親にも早く良い報告をしたい。

そんなある日の会社からの帰り道、不眠症の目に
ふと空き地の柿の木が飛び込んできた。

小学生の頃、ケンちゃんとたけしくんとで
よくその木に登って遊んだ。夏には青い実がたくさんなっていた。

最近は木登りをする子供を見ない。
ここ数年、その木にも実はなっていないようで
どこか寂しそうに見えた。

突然思い立って、十年以上挨拶しかしていない2人を連れ出し、
木の下での宴会を持ちかけた。

街灯の中、コンビニの缶ビールとつまみで時間を忘れ、
木登りの思い出話をした。
時おり木がざわめき、心地良い夜風が3人の「少年」の頬にあたる。
下から見上げる柿の木は、あの日のように大きかった。

次の年、木には多くの実がなった。
どこからか子供らが集まって、青い実を見上げ何やら騒いでいた。

いつの間にか不眠症は消えていた。

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