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【創作大賞2024-応募作品】『アブソリュート サンクチュアリー』〈Sleeping Beauty -眠り姫- 編〉Ep9 神祓い_後編

 焔護ほむらまもりのぬしの護る神社は、中規模ながら、良質な神気に護られた、三百年近く近隣の人々の信仰と尊敬を集めている神社だった。

 神剣を後方に構えると、刀身がオレンジ色に輝きだした。

「焔護りの主様、みやけがされた仇は必ず取りましょう。山ごと祓い清めますゆえ、ご容赦ください」

 シュッっと短い息を吐き、下段から跳ね上げるように振り上げる、暁の弧を描く軌跡は、山の麓から血でけがれた焔護りの主ごと切り裂いた。

 ズバァーーーーーン

 地響きと共に山全体が暁の光で覆われ、妖気も獣も霧も浄化され消えていく、本殿一帯は左右に吹き飛ばされていた。

われの至らぬが故に世話をかけた……」

 両断された焔護りの主は、穏やな瞳で音を立て霧散していった。
 神を滅ぼし同時に浄化を行った暁の光も消え去った。

 この神社は新しい神でも生まれない限り、遠くない未来廃墟と化すだろう。良質な気の流れを護っていた神はもういないのだ。

 剣を軽く振り払い、殺気の籠った切っ先を吹き飛ばされた本殿の中心へ向ける。

「さぁ、続きを始めようか」

 中心に立つ者――忘れもしない、束帯そくたいを纏った禿頭とくとうの大男だった。
 おれの神気はる気全開の輝きで二重三重の光輪を形成している。

「切るのは構わないが、あの子も死んでしまうぞ」

 束帯野郎がおれの後ろを指差す向う、鳥居の足元にへたり込んでいる人影が見える。

「そんな、まさか!」

 突発的にAS(神域=アブソリュート サンクチュアリー)を展開した場合、ごく稀に人が紛れることがある。
 影響は二タイプに分かれ大抵は精神の拘束のみで、見たことはAS解放時点で忘れてしまう。
 最悪なのはもう一つの方、身体ごと取り込まれる場合で、人の気しか持たない身体は回復不能のダメージを受け多くがその後の人生に暗い影響を残すか、神気で身体ごと消滅してしまう。
 とても不幸としか言いようが無い。 

 今起こっているのは、その最悪の方――おみくじの所で会ったあの女の子だ。

「九郎!」
 言うが早いか、九郎が女の子の後ろに現れ流星の模様を模した単衣ひとえを使って包み込んだ。

「おれのAS内で人を検知出来ないとは――」
 毒づいて束帯野郎に視線を向け直した。

「なんだ助けるのか、お優しい事だな、人など放っておいても幾らでも湧いてくるものを」
 笑いながら握っていたしゃくを一振りすると獣が溢れてくる。 

 シェリルは九郎のフォローに回り獣を蹴散らしにかかった。
 女の子は単衣の神気遮断機能と九朗が結界を張り、おれの神気が女の子に影響を与えるのを防いでいる。しかし、AS開始時からいたのなら、甚大な影響が出ていても不思議ではない。確認している暇は無いから、いい方向に考えるしかなかった。

 おれを囲む光輪が広がり山頂を覆っていく――光に触れた獣は霧も残さず蒸発していった。
 内向きに反転した光は幾千もの矢となり束帯野郎に殺到する。長刀の一振りで光の矢を躱し、一緒に切り込んだ神剣を受けていた。

 合わせた剣と刀から衝撃波が起こり、九朗が結界を張っている鳥居付近を残し本殿周辺が消滅した。
 双方、十メートルの間合いで対峙している。

「中々筋はいいが、まだまだ」
 刀を構えた束帯野郎はニヤけた顔を崩さない。
「言ってくれるじゃないか」

 言い終わる前に、半回転しつつ左下から切り上げ、躱されたと感じる前に刃先を同じ軌跡で振り下ろしていた。
 瞬きの間に四通りの剣技を繰り出し、最後の一太刀が束帯野郎の片腕を切り飛ばしていた。
「ふふ、やるではないか」

 おれも左肩を抉られ無傷とはいかなかった。
 単衣の中で守られているが、女の子の為にも早期決着が望まれる。

 一呼吸する間に意識と神気を内側に収束し、セピアの瞳に業火を宿らせ軽く腕を手前に引く。
 閃光と光彩が辺りを満たし、次の瞬間には神剣を振切っていた。

 閃光の尾の先に飛んで行く物――首だった。

 首を飛ばされても不敵な笑いを崩さず束帯野郎は霧散していった。

 剣を振り払い、腰の後ろに吊るしながら大急ぎで鳥居に向かった。
 単衣に包まれ気を失っている女の子を抱えた九郎が感嘆の表情で迎える。

「いつにも増して凄い剣筋だったな。女の子は心身共に問題無いようだ。このまま返しても何も覚えていないだろうさ」
「これは将来が楽しみな子ね、まぁ、私には敵わないでしょうけど」
 シェリルがこちらを見ながら、うふふと笑っている。
「好き勝手言ってろ」

 おれは鳥居から、祓いの終わった清浄だが何もないAS内を眺めていた。

 数歩前に出て、神剣を抜き身で右手に出現させると、本殿のあった中心点までジャンプした。
 神気を神剣に込める。青白い光が淡く濃く満ちるのを確かめて、突き刺した。

 AS内が青白い神気の色で染まり、霞のように消えていったことを確認して、鳥居までジャンプして戻った。

「神気で超マイルドな結界敷いたから、向こう三百年は大丈夫だろう。これだけ参拝者が多いんだ、次の神が生まれたら自然解除されるようにしといたが、三百年の間で顕現が無くても、おれは知らん」

 九朗とシェリルは何か言いたげだったが、ガン無視してやった。

「AS開放して帰るぞ」

 実は心底ホッとしていた。
 高圧の神気解放とASの即時展開。
 何かとカンに障る野郎との消耗戦。

 高密度神気の垂れ流しで、女の子が無事でいる保証は無かったのだから。

 無となって尚、薄っすらと女の子を包み護っていた、焔護りの主の神気は、AS解放後、陽炎のように大気に溶けていく、霞と化してゆく仮想空間を見つめながら、もう届かない彼方へ言葉を向けた。

「焔護りの主様、助力頂きましてありがとうごいます。無事成し遂げることが叶いました」
 九郎とシェリルも彼方へ向け一礼していた。

-つづく-


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