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『推し活 -False angel-』 13話-霜月-中編【創作大賞2024-応募作品】

 -注意書き-
 この話はフィクションです。
 登場する人物名、地名、事件等は全て架空の物です。

 以下から、本文が始まります。


「お兄さんの状況はその後どうですか?」
「あまり変わらないみたいです。浪人生なので勉強に集中したいのかもしれません」
 チャットログに感情は乗らないが、ため息しか出なかった。

 ゆみちんからアプリサーバーのログからmarinが絡んでいることは確定できたが、実際に手を下しているかどうかは掴めなかったと連絡があった。詳細を聞いてmarinのスマホデータが取得出来ればと話したが、今の所、取得出来る可能性が無くリスクが大きいとゆみちんが言っていた。
 アプリサーバーの捜査は終了とした。ゆみちんはシステムメンテチームに残り、メンテ作業を行うこととした。
 ゆみちんの言い分も分かる。その通りであるし、一学生の捜査など、ここが限界なのだろうか。

〈wool〉に自分の推し活支援を要請して、半月が経過していた。満点を授けたくなるような対応で、全く手応えがない。
 侑喜ゆうきについてリアル情報を聞き出そうとする兆候もなく、性格的な話から対策を数点提示されどれも良く出来ていた。まるで専門のカウンセラーに受注したような出来だった。実際に行使していないので成果が上がるわけがない。

「そうですか、中々手強いですね。浪人中とのことでしたから気晴らしにもあまり時間は使いたくないのかもしれませんね」
「はいそう思ういます。今月で兄の推し活は取り下げようと思います。なんだか恥ずかしくなってきました」
「そう言わずに、応援もいいねもすごい数ですよ」
 確かに、直接コメントは出来ないが夜姫胡の兄活(推し活)は、選抜VIPでもこんな事で推し活するのかと評判は上々だった。似たような推し活も増えていた。

「それでも、いい加減いいかなっと思っています。余計なお世話だったみたいです」
「そうですか」woolは文面の冷静さを保ったままだ。
「折角の機会なので、woolさんからアプリ運営についてご教示頂けれと思っています。機会を設けることは可能でしょうか?」
 夜姫胡は返信を待っている。

「ぼくでいいですか? marinの方が適役ではないですか? とてもうれしい申し出なので対応は可能です」
「ありがとうございます。トップに立つよりサポートする側で立ち回りたいと考えています」
 少しノイズを感じていた。何処からだろう? ここは時間貸しの個室レンタルオフィスだから、自覚無しの送信でも拾っているのだろうか。
「では、選抜VIP用のチャット機能を使って行うのはどうでしょう? 質問項目が纏まったらメッセ下さい」
「はい、よろしくお願いします」

 夜姫胡は深呼吸した。取り合えず話す機会は作った。実際に顔を突き合わせた方が良かったが、相手は男性であるし敵方なので二人で会うのは望ましくない。
 オフ会の時はどうだったか? 司会以外は数人と会話していたような。
 ルビー、marin、るーとぐらいしか覚えていない。会話内容は分からないから、あらかじめ顔見知りかどうかだけど、marinは知り合いだったと言っていたし、ルビーはあっちからwoolにコンタクトしていたし、るーとは……お互いに挨拶してたからリアルでは初見なのだろう。

 チャットの終了したスマホを眺めながら、別アプリを開きゆみちんに簡単なメッセージを送信した。
「羊とCで会話継続確定」
「りょ!」待ってたのかと疑うくらい神速返信だった。
 十九時を回っていて帰宅するべく受付へ清算に向かった。

 寝る前にまとめた項目をwoolへ送信した。
「質問纏めました。
 1:リリース準備に費やす時間はどのくらいありましたか
 2:アプリ公開までにこれは手配しないといけないことはありますか
 3:アプリ開発はアウトソーシング可能ですか
 以上三点取り急ぎ送ります。お時間のある時によろしくお願いします」
 送信をタップして就寝した。

 朝、返信が届いていた。
「回答を準備出来た順に送信しますね」

「うーんこれは……普通にアシストされて終わりそう」
 寝癖が付いた頭を傾けて、暫し固まっていたが「やっぱ会うか」そう言いながら瑞樹たまきにメッセージを送った。

 数日woolからアプリ運営のノウハウを勉強しながら、どう会う方向に向かおうか考えていた。woolに気があるように見せるのは正直自信がない。そんな出来る女じゃないし。コミュニケーションモンスターのゆみちんに相談してみたが、「woolとはあたし相性が良くないから助言できないよ」なんてやんわり断られしまった。ゆみちんでも相性があるらしく、助言を断られたことは初めてではない。

「ああー困ったな」
 今日は人員策定について返信を貰った。このあたりで一回レポートに纏めて見てもらう話しになっていた。夜姫胡が仮で考えたアプリのリリースを目指すための準備として、レポート作成する話が進んでいた。

「一度web会議形式で対面でまとめしましょうか? 一応顔見知りでもありますし、予定つきそうならご連絡ください」

メッセージを見ながら「電気信号から何か読み取れるかな? 送受信出来るかくらいしか分かんないし、心読める分けでもなし。だからってテレパス(テレパシーを使える人間)でも面倒だし。手詰まりかな」

 持っていたスマホが揺れた。瑞樹からメッセージが来ていた。
「対応可能だから、直接音声通話が出来るようなら受けろ。詳細を教えてくれ」
「どうやるつもり?」
「企業秘密」

 ――なにそれ?

 ***

 ――そうか、アプリ運営に興味があったのか。
 woolはカフェから夜姫胡とチャットしていた。woolの収入源は推し活しようよアプリの広告収入と自身で運営しているブログサイトから十分に入ってきていた。
 ノートパソコンの画面を適当なネットニュースの画面に変えた。
 ――お兄さんの〈X-DAY〉はあと半月程度の予定だし。どうせなら見せた方がドラマチックな展開が期待出来そうだ。

 普通のメッセージアプリから、進捗伺いを出した。
「順調よ、予定が確定したら教えるわ」marinからだった。
「ありがとう。ぼくの天使」
 メッセージを読み返し、周りに分からないように歪んだ口元は、邪悪な笑みを生み出していた。

 ***

「そっか、そうなの、か?」
 夜姫胡はヘッドセットを外しながら後方で陣取っていた瑞樹に問いかけた。前回から数日経っていてwoolとweb会議を終えたところだった。
「そうだ、woolはテレパスだな。距離はリアルで二十メートルも飛ばないだろう。特に力を押さえているように思えないから、受信も同程度だろう。ただし接触系だった場合この限りではないから油断できないよ」

「うん、たま兄の言う通りの探り方で、送信しているって分かったよ。だったらmarinとも通信していそう。オフ会の時呼ばれたのはあたしがテレパスかどうか試そうとしてたのかな。微弱で分からなかった」
 夜姫胡は雑音(第三者のテレパシー)を避けるため、普段から野良送信を遮断している。極近くだったり、強力だと相手には悟られないが、拾ってしまうことがある。
 ため息をつきながら瑞樹を見た。今は週末の午後で、瑞樹の家からweb会議をしていた。実家は侑喜がいるから音声会議は出来ない。

「次は十二月十四日だな、場所が指定されていたが対面するわけじゃないから大丈夫だろう。モニターしているから安心していいぞ」
 瑞樹もヘッドセットを持っていた。会議をモニターしていたのだ。入室人数は二人の表記で、実際は三人が入室していて不正操作に当たるが特に気に掛けることは無かった。

 夜姫胡も瑞樹に絶対の信頼を持っている。侑喜の事はむしろ守っていると思っていた。ファースト受信は瑞樹だった。混乱する夜姫胡にテレパシーの〈いろは〉を教えたのは瑞樹である。
 自分の能力につぶされる事も無く普通に生きていけるのは、瑞樹という指針があったからだった。
「じゃあ、来月」そう言って夜姫胡は実家へ帰って行った。

「瑞樹、今いいか?」受信が入って来た。
「おう、どうした」
幹康みきやすを推し活していた奴と実行者を特定したよ」
 瑞樹の視線が鋭くなった。自室から出てリビングの大きなクッションに腰掛け「ケムエル、報告してくれ」そう送信して回答を待った。

「推し活登録者は……侑喜、実行者はmarinことアプリ運営管理責任者〈川口真鈴〉だ」

 瑞樹は立ち上がっていた。

-つづく-


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